参院選での与党大勝、ASEAN・中国「南シナ海行動規範」協議合意

白石 隆【Profile】

[2013.07.31] 他の言語で読む : ENGLISH | 简体字 | 繁體字 | FRANÇAIS | ESPAÑOL | العربية |

参院選与党勝利で衆参「ねじれ」解消

7月21日、参議院議員選挙が行われ、連立与党の自民党と公明党が改選議席121のうち76議席を得て大勝した。自民党は31の1人区のうち岩手、沖縄以外の29選挙区を制して、選挙区47と比例代表18の合計65議席、公明党は候補者を擁立した全4選挙区と比例代表7を合わせ、11議席を確保した。この結果、自民、公明両党の議席は、非改選59議席と合わせて135となり、参議院(全242議席)の過半数(122議席)を確保した。これにより、衆参両院で多数派が異なる「ねじれ」が解消したのみならず、参議院の全ての常任委員長ポストを独占できる「安定多数」(129議席以上)も実現した。

他方、民主党は候補者を擁立した19の1人区で全敗し、改選44議席から大幅に議席を減らして、1998年の結党以来最低の17議席を得るにとどまった。また、みんなの党と日本維新の会はいずれも8議席にとどまった。共産党は東京、京都、大阪の3選挙区で議席を獲得し、2001年以来、12年ぶりに選挙区での議席を復活させた。連立与党の大勝が事前に広く予想されていたためであろう、投票率(選挙区)は52.6%にとどまり、前回の2010年参院選の57.9%を大きく下回った。

国民の期待は“決められる政治”と強い経済の回復

参院選翌日の7月22日に安倍晋三首相(自民党総裁)は、自民党本部で行った記者会見の冒頭で、次のように述べた。

国内総生産(GDP)や雇用といった指標は好転し、確実に成果は上がっている。そして昨日、「決められる政治によって、この道をぶれずに前に進んで行け」と、国民から力強く背中を押してもらったと感じている。

・・・

国民との対話を怠り、あるいは改革から逃げるような古い自民党に逆戻りすれば、直ちに自民党への国民の信頼は失われてしまう。

・・・

今日からが本当のスタートだ。とりわけ国民が最も求めているのは、全国津々浦々まで実感できる強い経済を取り戻すことだ。経済は国力の源泉だ。外交力も、安定した社会保障も、経済なくしては成り立たない。

秋の臨時国会は成長戦略実現国会だ。大胆な投資減税を決定し、産業競争力強化法などを成立させたい。実行なくして成長なし、日本再興戦略に盛り込んだ政策を、どんどん実行に移す。

・・・

大胆な規制制度改革も、TPP交渉も、消費税率の引き上げも、いずれも困難な課題ばかりだが、将来のために結論を出していかねばならない。

(7月23日付『読売新聞』朝刊掲載の記者会見要旨より)

まさにその通りである。日本経済新聞社の緊急世論調査(7月22~23日実施)によると、衆参のねじれ解消をよかったとする人が62%、「3年間は選挙をせず、政策の実行に専念すべきだ」「3年を待たず、一定の期間がたったら国民の審判を仰ぐべきだ」の二者択一については、「政策実行に専念すべき」と回答した人が61%、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を「評価する」が56%、「評価しない」が29%となっている。つまり、世論調査の結果をまとめて言えば、衆参ねじれは解消した、これからは「強い経済を取り戻す」ことにまい進してほしい、これが安倍政権への国民の期待である。

7月26日付『日本経済新聞』によれば、政府は国家戦略特区を活用し、地域限定で残業、解雇、有期雇用契約などの雇用条件の柔軟化、看護師、介護士、保育士の外国人受け入れ拡大、病床規制見直し、株式会社の農地所有解禁、商業ビルなどの駐車場設置義務の廃止などの規制緩和を検討しているという。安倍首相主導の下、医療改革、農業改革もふくめ、国家戦略特区におけるより多くの、より大胆な規制改革を期待したい。

「南シナ海行動規範」策定協議開始でASEANと中国が合意

6月27日から7月2日まで、ブルネイで東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議、ASEAN地域フォーラム(ARF)、東アジア外相会議など、一連の「ASEANプラス」の会議が開催された。その際、ASEAN・中国外相会議(6月30日)では、中国とフィリピン、ベトナムなどが領有権を争う南シナ海の問題について、法的拘束力を持つ「南シナ海における行動規範」の策定に関する公式協議を9月に開始することが合意された。昨年7月、カンボジアのプノンペンで開催されたASEAN外相会議がこの問題をめぐって紛糾し、共同声明の採択を見送ったことからすれば、大きな前進である。(関連記事1) (関連記事2) (関連記事3) 

しかし、これは南シナ海の問題が今後解決に向かうということではない。中国は、南シナ海の問題を「国際(多国間協議)化」することなく、当事国の二国間交渉で解決すべきとの立場を全く変えていない。昨年、中国とフィリピンの巡視船がにらみ合った末に、中国が実効支配を確立したかたちとなったスカボロー礁の領有権問題についても、フィリピンが国際仲裁裁判所に提訴したのに対し、中国は応じようとしない。最近では、フィリピンが実効支配するスプラトリー諸島(南沙諸島)のセカンド・トーマス礁周辺海域で、中国の監視船が居座り、中国は、ASEAN・中国外相会議の直前にも、「わが国の主権を侵害する行為」を停止するよう、フィリピンに要求した。

さらに、ASEAN・中国外相会議の直後には、中国政府(国務院)が、国家海洋局の組織・人員の再編に関する規定を承認し、「海洋権益保護に向けた法の執行能力を高め、海洋の秩序や権益を守る」とした。ついで7月22日には、東シナ海、南シナ海などにおいて武装公船によって法執行を行う「中国海警局」(海上保安庁に相当)も正式に稼働した。

緊張高まる可能性が高い南シナ海

こうしてみれば、ASEAN・中国外相会議で「南シナ海における行動規範」の策定に合意したからといって、中国がこの作業を早期かつ迅速に進めるとはなかなか考えにくい。中国としては、この作業をゆっくり進めながら、その間、自国の領海法に基づいて「法執行」を着実に行い、南シナ海の実効支配の実績を積み上げていこうとするだろう。近年、南シナ海のパラセル諸島(西沙諸島)、スプラトリー諸島などでは、中国公船によるベトナム、フィリピン漁船のだ捕、海底資源探査船に対する妨害事件などが激増している。フィリピン政府によれば、スプラトリー諸島海域における中国の妨害事件だけを見ても、その件数は、1995~2009年の7件から2010~12年には24件と激増しているという。中国海警局の本格的な活動開始とともに、中国とベトナム、フィリピンとのトラブルはますます増加し、南シナ海における緊張がさらに高まる可能性が高い。

(2013年7月29日 記)

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  • [2013.07.31]

nippon.com編集企画委員会顧問。政策研究大学院大学学長、ジェトロ・アジア経済研究所所長。1950年愛媛県生まれ。1974年東京大学大学院国際関係論修士課程、1977年米コーネル大大学院博士課程修了。コーネル大歴史学科・アジア研究学科教授、京都大学東南ア ジア研究センター教授を経て2005年から政策研究大学院大学教授。2007年、紫綬褒章を受章。2009年1月から2013年1月まで内閣府総合科学技術会議議員。2011年10月から2014年3月までnippon.com編集長。著書に『海の帝国―アジアをどう考えるか』(中央公論新社/2000年/吉野作造賞受賞)、『帝国と その限界―アメリカ・東アジア・日本』(NTT出版/2004年)など。

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