見えないものを探す旅へ
こうしてガショ監督は、ジョアン・ジルベルトを探すマーク・フィッシャーの旅を受け継ぐことを決意する。それが冒頭に述べた「奇妙なドキュメンタリー」の形を取るに至るまでに、どのような経緯があったのだろうか。
「まず、この本の中から、映画の入り口になりそうな部分を探していきました。それを再現シーンにしたらいいのか、ドキュメンタリーのままで行くのか、あるいは単に本の抜粋をナレーションで聞かせながら映像を当てはめていくのか…、最初は分かりませんでした。そう考えていくうち、誰か第三者をレポーター役に立てて話を進めていくのは不可能だと気付きました。それで、今までやったことはなかったですが、私自身がカメラの前に出て行って、語ることにした。自ら探偵役になることを選んだのです。そうして書かれたのはまったくフィクションの脚本と同じでした。42のシーンがある物語です。もちろん、いくつか想定外の出来事を盛り込んだ場面はあります。撮影を始めてから、最初の部分は構成を変えることになりましたが、全体のおよそ8割はシナリオ通りに撮っていった。そして結末だけは、何も決めず空白にしておいたのです」
撮影は2つの期間に分けて行い、最初の撮影を終えてから10カ月して、いくつか付け加えるカットを撮っていった。最後のシーンはいつまでたっても撮れなかったという。編集には1年半かけた。
「私のこれまでに撮った正統派のドキュメンタリーと違い、今回はある人物に起こった悲劇をスタート地点にしている。そして私が、彼の役柄を演じるように登場する。自分の声で、彼の書いた文章を読み上げ、語り手となる。それが何カ月も続くのですから、なかなか辛いことでした。私は自分に問いかけざるを得ないわけです。私もマーク・フィッシャーなのではないか。彼のように脆(もろ)いのではないか。目標を見失ってしまうのではないか…。終わったときは正直ホッとしましたよ。これでようやくフィッシャーと距離を置くことができると。撮影の間は集中しているので、そこまでは考えませんが、撮り終わって編集の段階に入ると、重さがのしかかってきた。映画の中で、自分について語ること、自分をさらけ出すことが避けて通れなくなった。それまでは決してやりたくなかったことです」



