新卒でベンチャー、副業はネット書店経営

書店という空間で救われた体験に加え、小学生の頃から、外遊びの傍らで雑誌づくりの真似事をしたり自分で物語や漫画を書いたりするのが好きだった。小説家への憧れはありつつも、簡単には書けない。でも好きな本のそばにいたい。できれば本と読む人たちの仲介者として、おせっかいをやいていたい――。

竹田さんが社会人になってからも副業としてネット書店を続けた理由である。

一方、リーマンショックの直前に営業職として入社したベンチャー企業では、就労環境は典型的なブラック。たまの休暇に本の買い付けに行くのが心の安定という生活。営業のついでに古本屋で本を仕入れて、夜、ネット書店にアップするのが唯一の楽しみとなった。

2年半で辞め、転職したIT企業はワンマン経営のため離職者があとを絶たず、竹田さんも程なく退職した。

27歳のそのとき、副業にしていたネット書店の方を正業にしようと思い切った。文京区白山のスペースをほとんどタダ同然で貸してもらえる幸運が後押しし、リアル書店を始めることにした。2013年春のことである。

神田神保町にある中堅の取次店が買い取りを条件に取引を引き受けてくれた。
「100年続く書店を目指します」という竹田さんの言葉に、担当者の心が動いた。

世の中にはすでに「出版不況」が定着していたけれども、書店を始める若者も増えていた。その一方で閉店が続く状況を残念に思っていたその人から「頑張って続けて欲しい」とエールを竹田さんは受け取った。

「このチャンスを生かさないともったいないと思いました。まだ若いから、今ならできるかなって。妻に迷惑をかけなければなんとかできるかなと」

大学卒業と同時に結婚した獅子座の妻は漫画家だ。当時はデビュー前で、コツコツと作品を書いていた。

企業の形をとるために、リアル書店「双子のライオン堂」を父の経営する人材教育コンサルティング会社の書籍事業部に編成。

だが、書籍事業単体では竹田さんの給料を支払うほどの利益は出ない。前に働いていた会社にアルバイトとして雇ってもらうことで、妻と2人分の生活費を稼ぎ、合間に本を仕入れた。仕事内容は、清掃や保守管理、経理など雑務だ。

2015年、赤坂の現在の場所への移転は転機となった。
竹田さんの真剣な取り組みを見てきた父の勧めにより、銀行に借金をし、築70年近い古いマンションの1階部分を購入した。現在の青い扉の店舗スペースだ。

壁いっぱいに本棚が広がる店内
壁いっぱいに本棚が広がる店内

書店経営を維持するため、アルバイトはより重要な「部品」となった。

ベンチャー企業でのアルバイトに加えて父の会社の経理、文字起こしなど、掛け持ちで働いている。

店の営業は週4日。午後3時から9時が基本の営業時間だ。
竹田さんがアルバイトで店に出られない時間帯は、父に店番を頼む。

客の来店を待って本が売れる時代ではない。

赤坂に移転してからは読書会を年間60回以上。初めての読書イベントには、恩師辻原登を迎えた。

読書会の様子
読書会の様子

ある夜は、韓国文学がテーマの読書会に7人ほどの本好きが集まっていた。進行役は、韓国文学ファンの常連客。初めて参加した30代の女性、周囲に本好きがいないから本の話に飢えているというエンジニア、子育てが一段落し、本を読み学び直したいと通う50代の主婦など、顔ぶれはさまざま。結びつけるのは本だが、さっぱりと後を引かない関わり合いを大切にしているという。

「純粋に本の話をするためだけに集まる場ですので、終わってからの飲み会はありません。初めて顔を合わせる人たちがほとんどです」

さらに、毎年1月に文芸誌『しししし』を発行、最近は作家のピアノCDを出した。年間8万点もの出版物が生まれる時代に、大量の本から自分の読みたい本を選ぶのが難しいと感じる人に向けた、選書配本サービスも行なっている。

「このライオン堂という場所から本や作家にまつわるいろんなことを仕掛けていきたい」

本業界を「外資」で支える

都内の移動はもっぱら自転車に乗る。
体を使う仕事と書店経営は心身の健康の上でもバランスがよいようだ。「二足のわらじ」を能動的に選び書店経営を成立させている仕事のつくり方は、副業が推奨される現代の働き方にも呼応しているように見える。

ところが竹田さんは、出版業界が縮小している状況に対し、もう一歩踏み込んで考えていた。

「ぼくは本に携わる業界の中だけで食っていくのではなく、書籍とは異なる分野で『外資』を稼いで書店業や出版の世界に資金を流入させたいと考えています。経済が潤っている別の業界で利益を出して本を取り巻く世界に還元したい。だから、ライオン堂では本とは異なる売れ筋の何かを見つけたい。本の外で稼いで出版業界を100年保ちたい」

ウェブサービスなのか、掃除道具のようなグッズを開発販売することなのかわからない。別の「稼げる」事業を見つけて文学や出版に還元する。その筋道を発見することを真剣に考えているという。

「チャレンジのひとつとして、アルバイトの経験を生かして来年は清掃事業を始めたい。そこに小説だけでは食べていけない作家が参加するのもありだと思うんです。作家が稼ぎを確保しながら小説を書き続けられる仕組みをサポートするのも必要なことだと思っていて」

愛読書はサリンジャーとドン・キホーテ。
高1のとき「ライ麦畑でつかまえて」を読んだ。最終章で主人公がライ麦畑の崖から落ちそうな子どもたちを守る仕事がしたいというくだりに、「それ、ぼくもやりたい」と思った。そんな仕事があるかわからないが、もしあったら子どもたちをちょっとだけ助けることができる。

今、ライ麦畑で子どもたちをつかまえる仕事と書店業に共通項を感じている。
「ぼくもこの本屋の仕事で作家と読者の媒介役として役に立ちたいなって。本によってきっと救われると思っているからですかね」

そして100年続く本屋を目指すクレイジーな横顔は、純粋で一途で愉快なドン・キホーテに連なる。

写真撮影:長坂 芳樹

双子のライオン堂

東京都港区赤坂6−5−21−101
http://liondo.jp
営業時間 15〜21時
定休日  日、月、火
ジャンル 新刊、古書、選書専門店
蔵書数 約3600冊