「我慢強さ」と「協調性」:現場で決断できないマイナス

「日本人は非常に忍耐力があります。苦しいことでもやりきる傾向が強いのです。私は激しいトレーニングを選手たちに課しましたが、果たして同じことを母国のオーストラリアで行っていたとしたら、選手たちは耐えられたかどうか。私も違ったアプローチを取っていたかもしれません。では、なぜ日本人は耐えられるのか? それは周りからの同調圧力が強く、自分だけが取り残されることを嫌がるからです」。

和を乱すことを嫌う。別な言葉で言い換えるとどうなるか。協調性が強いのだ。

一般的に、日本の社会では協調性が尊ばれる傾向にある。周りとうまく溶け合って仕事を進める能力が評価されやすい。しかし、ジョーンズHCの眼からは、ことラグビーに関しては協調性が強すぎるのはマイナスに働く。

「たとえば、ボールがタッチに出てラインアウトになったとします。フォワードのメンバーはどんなプレーをするか決めてサインを出さなければなりませんが、日本人はなぜか1人で決めようとせず、合議制を取ろうとするのです」。

ジョーンズHCから見れば、こうした傾向は責任を逃れるための巧妙な手段にしか見えない。

「ラグビーは決断、判断のスポーツでもあります。試合中はすさまじいスピードでゲームが動いていきますから、迷っている暇はないのです。経験、知識を動員して素早く判断しなければ負けてしまいます」。

協調性を重んじて生きてきた日本人には、ラグビーをするには改善しなければならない部分があったのだ。

面白いものだ。日本人の美徳といってもいいかもしれない我慢強さはエディー・ジャパンを支える武器にもなったが、それはまた、負の要素である協調性にもつながる。

すべてを表と裏では判断できない。表裏一体となってみないと、それがどんな影響を及ぼすのかはわからない。

自立した選手たち:勇気ある決断が逆転劇生む

選手たちはジョーンズHCの厳しい指導に耐え、決断力、そして自立心を養った。ワールドカップでは南アフリカ戦の最後の最後、それが問われる瞬間が来た。

スコアは32対29、3点差を追う展開。日本は敵陣ゴール前でペナルティを得た。ペナルティゴールを選択し、決まれば同点。これでもラグビー史に素晴らしい1ページを刻んだに違いない。ジョーンズHCはペナルティキックで同点にすることを望んだ。

しかし、リーチ マイケル主将はスクラムを選択した。勝ちにいったのである。皮肉なことに指揮官と主将の判断が分かれたのだ。

ラグビーW杯1次リーグ・南アフリカ-日本。後半、突進する日本代表のリーチマイケル(右端、東芝)=2015年9月19日、イギリス・ブライトン(時事)

息詰まるような攻防のあと、日本はカーン・ヘスケスのトライで逆転した。世界のラグビー史、いや、世界のスポーツ史に残る大番狂わせである。

最終的に、選手たちはジョーンズHCが望んでいた「自主性」を発揮して逆転劇を演出した。選手がスクラムを選び、さすがのジョーンズHCも驚いただろうが、「リーチの勇気ある決断に敬意を表します」と後になって話した。

日本ラグビーの素晴らしいストーリーが完成した瞬間だった。

バナー写真:ラグビーW杯1次リーグ・南アフリカ-日本。後半、トライを決め喜ぶ日本代表の五郎丸歩(左、ヤマハ発動機)ら=2015年9月19日、イギリス・ブライトン(時事)