60歳は、もはやシニアではない

——伊勢丹新宿店の2013年の改装オープンで、シニア層向けの売り場を3割ほど縮小したものの、ミドルからシニア層の売り上げは落ちなかったという事例があると伺っている。これはどういう現象と考えているか。

新宿店は、実は年齢軸を意識した店づくりをしていない。テイストとライフスタイルを第一に考えている。そうはいっても、「このフロアはだいたいこの年齢層の方が多いだろう」という想定はある。その時のことだが、2階フロアは完全に20歳代、30歳代を客層に想定していたのだが、そこで私どもの予想の3倍ぐらい、50~60歳代のお客様が買っていただくという結果が出た。シニア層からの売り上げはこのフロアでは数%という予想が、実際は15%ほど。50代、60歳台前半の方は、感覚が若い。特に女性はファッションへの意識が高い。

現在は、60歳という年齢は「シニア」という言葉には当てはまらないだろう。70歳や75歳ぐらいがシニア。だから、60歳代の購買を上げるチャンスはあるとみている。新しい提案をすれば、反応してくれる。一方で、70歳以上の方に「これまでの倍買ってください」と働きかけるのは無理な話で、ここは別のアプローチが必要だ。

百貨店がやる「コンビニ」展開

——シニア層の持つ資産は70兆円とも100兆円とも言われ、“消費の主役”と持ち上げる見方がある一方、シニア消費は高級品に向かわず、コンビニ商品を指向するという分析もある。これについてどう見ているか。

資産や蓄えがあって、高級品を買ってくれるというマーケットは百貨店にはある。一方で、家の近くに歩いていけるお店がない“買い物難民”と言われる人が600万人もいると指摘されている。全体を見た時に、この人たちに対して「どうするか」ということを考えなければと感じている。

そこで、百貨店がやる「コンビニ」というのか、サテライト店というものを増やしている。もちろんコンビニのように何万店もの出店はできないが、数百店という単位で、もう少しグレードを上げた商品を出していきたい。サテライト店は衣料品や食品、雑貨も置いている。品数は当然絞り込まれる。お中元やお歳暮、ギフトなどの需要は地方にはまだあり、それにも対応する。

販売員の接客が百貨店の強み

——eコマースの増大、高齢化の進展により、コンビニでさえも「接客力の強化」を掲げる経営者が出ている。シニア消費者に向けた接客の重要性をどう考えるか。

コンビニでの接客というのはレジがある場所、お客様とカウンターを介してのやりとりに限られる。ところが百貨店の場合、お客様が店舗に入った瞬間から接客が始まる。きちっと商品を介して、会話が発生する。この差を維持していかないと、百貨店の強みはなくなっていく。店頭にいるスタイリスト(販売員)の人数は、どんなに厳しくても減らさない。私どもは逆に増やしている。特にシニア層は、丁寧な接客を望んでいると思う。

売り上げや利益も大事だが、私は入店客数を相当シビアに見ている。高齢化とネット社会の進展で、今後は年3-5%ほど入店客数が落ちるのではと仮説を立てている。そうなっても売り上げ、利益が維持できるような準備が必要だ。

地方の良品を新しいマーケットに

——東京と地方がこれまで、消費文化としてはかなり近かったものが、関西圏も含めた地方がかなり地盤沈下しているという印象があるが。

首都圏はしばらく大丈夫だとは思うが、地方は少子高齢化と経済衰退で、ダブルの打撃を受けている。地方都市の市街地は、昔からの商店街に百貨店が誘致されて発展してきた。その後は住居が郊外に移り、イオンなどに代表される郊外型スーパーができて市街地が衰退した。今は、ともすれば行政施設すらも郊外に出ていく。市街地活性化は様々なところで議論されているが、もう少し大きなビジョンを持ってやらないといけないのではないか。

もう一つ、地方にはいいモノづくりとか、長い歴史のある産業が多くある。これらは私たち小売業のミッションとして紹介し、新しいマーケットにつなげていかなければならない。三越伊勢丹では2011年から、「JAPAN SENSES」のタイトルで、地方の優れた素材、技術、商品を再認識してもらう取り組みを行っている。

こういうところに国とか民間がお金をつけていくことが必要だ。政府は今回、2600億円の交付金を使って各自治体で「プレミアム付き商品券」が発行されたが、これによる消費拡大は一過性のもの。そのお金があるのなら、地方の産業を立て直すことに使うべきではないか。

聞き手:間宮 淳(ニッポンドットコム編集部長)

バナー写真:2013年に改装、オープンした伊勢丹新宿本店本館3階の売り場。ファッション情報などを発信するため、きらびやかなライティングが施された「パーク」と呼ばれるスペースが設けられている(時事)