家事育児の外部委託は会社員の「必要経費」
外国人家事代行に参入する企業は「特区」での実験に参加することで、外国人労働者を家事労働の担い手として自分たちがコーディネート・派遣する実績を積もうとしている。現地の研修会社と提携して、研修後に日本に連れてくるという経験を重ねれば、それもひとつのノウハウの蓄積になる。外国人家事代行が広がるなら、自社で研修所を作る動きも生まれるだろう。
ただ、やはり価格がネックになることは事実で、日本人並みの賃金の縛りをなくしてほしいと管轄の経済産業省に働きかけている代行会社もあると聞く。
企業が両立支援策のひとつとして、家事育児のサービス利用を補助する動きも出てきている。「カフェテリアプラン」(編集部注:企業の福利厚生制度などを社員が自由に選択できるようにした制度)の中に、家事代行などのサービス利用を組み込むといったものだ。
国が税制面で、個人の家事アウトソーシングを後押しするのも効果が大きいだろう。2016年度の税制改正大綱では、ベビーシッター費用を所得控除の対象とすることが検討されたが今回は見送られた。引き続き検討すべき課題だ。会社員の家事・育児のアウトソーシング費用は仕事を続ける上での経費であると認めることで、家事外注の意識が変わっていくだろう。家事外注にたいする抵抗感、罪悪感を取り除くきっかけになると思われる。
例えば、介護保険法が2000年に施行された当初は、介護は「嫁の仕事」という意識があったため、特に地方では訪問看護サービス利用への抵抗が強かった。しかし介護保険の利用が進んだ今、介護ヘルパーの活用をけしからんと言う人はほとんどいないはずだ。
日本の保育所には、ヘルパーにはない良さがある
育児に関しては、待機児童の問題はあるものの、日本の保育所は全体的にみると素晴らしい質を担保している。一方、外国人ヘルパーが普及している香港では、保育所が極めて少ない。施設の数は増やさず、中産階級以上の人たちは、ヘルパーを雇ってくれという方針だ。だが、いくら優しくて素晴らしいヘルパーだとしても、家の中でヘルパーと子どもが1対1で向き合うよりは、保育所の環境の中で育つ方が好ましいのではと私は思う。
日本は幼稚園と保育園を一体化する「こども園」を増やし、さらには小規模保育など選択肢を広げることで、保育所の待機児童問題を解消しようとしている。保育は保育所や子ども園を中心に担い、子どもの送り迎え、家事手伝いなどはヘルパーを活用することで、家事育児の負担を軽減できる。
介護の担い手としての外国人労働者受け入れの論議を
今回の外国人家事労働者の受け入れ解禁では、介護は業務の内容に含まれていない。だが、実はこれから深刻さを増すのは介護の担い手不足だ。今回の特区での実験では、働く女性の家事負担軽減を掲げて「介護」は業務から除外しているが、実は政府は介護人材の受け入れも視野に入れているのではないか。
イタリア、スペインなどの南欧諸国、シンガポール、台湾などの東アジアの国々では、家族が保育、介護を担うべきと考える「家族主義」が根強い。こうした国々では外国人家事労働者の数が増えている。つまり、介護施設が不十分な中で国民の負担を増やさずに女性の就労を拡大する方法が、外国人労働者の活用だからだ。日本は家族主義で介護施設は少ない。にもかかわらず外国人労働者が少ない極めて特異な国だと研究者の伊藤義典氏は指摘する。(伊藤義典 「先進国における外国人家事労働者の増加要因の国際比較分析」2014年)。
介護施設は介護を必要とする人全員を収容するだけの数を増設できないことは明らかで、在宅ケアに舵を切っても介護の担い手がいない。家庭における介護の担い手としての外国人労働者の適切な受け入れを議論する段階にきている。
同時に国内の労働者の雇用を守ることが最優先であることも忘れてはならない。外国人家事労働者、介護人材も受け入れるとするならば、日本人労働者の賃金の引き下げ要因とならないように配慮しなければならない。
外国人労働者が日本人労働者と共存し、国内の賃金水準の引き下げ要因とならないような受け入れ体制を検討する動きが出てくるのではないかと考えている。
(2016年1月21日のインタビューを基に構成)
バナー写真提供:野村 浩子(左写真=香港でフィリピン人ヘルパーを雇用する日本人家庭)、株式会社シェヴ