強制退去断行は「首都核心機能」強化の一環

北京市の強硬策は突如行われたように見えるが、実際には「首都核心機能」を強化する政策の延長線上にある。2014年、習近平国家主席は北京市を視察した際、政治、文化、国際交流、科学技術・イノベーションの中心として首都の核心的機能を強化し、それ以外の機能は他に分散させるように指示している。15年2月10日、習主席が主催した中央財経領導小組(中央財政経済指導小グループ)第9回会議では、各担当者が新型都市化、食糧安全保障、水問題、エネルギー問題、イノベーション発展戦略、アジア基礎インフラ投資銀行(AIIB)、シルクロード基金などの実施状況を報告し、その中で、「北京市、天津市、河北省一体化共同発展計画」についても協議された。これは、3つの地域で産業、経済、都市化の連携と調整を行い、同時に地域格差や環境問題の解消も図るというプランだが、そこで、「非首都核心機能の分散と調整」が掲げられ、過度な人口集中、治安の悪化、低収益産業の集積など、首都にふさわしくない状況の改善を急務としている。

17年に入り北京市は、計画実現に向け強力なかじ取りを開始した。悠長に構えていては目標を達成することはできないため、「開墻打洞」(壁を取っ払い、穴を掘る)といったスローガンが掲げられ、違法建築物などの強制撤去や住民の強制退去を断行したのである。同年6月9日付『人民日報』によると、北京市は4月末までに1万2255カ所(1640.9万平方メートル、16年同期の3.8倍)で「開墻打洞」を実施し、年度計画の76.1%を完成させたのだという。

「棚戸区改造(棚改)」(不法占拠地区の再開発)も本格化している。先の『人民日報』は、17年3月8日までに延べ人数で9960人の法律相談を受け付け、439件のトラブルの解消、調整を行ったと報じている。

このように『人民日報』は、短期間のうちに、長年懸案となっていた建物の撤去や住民の移転を完成させたと報じているが、情報統制が厳しくなる状況において、こうした前向きな報道をうのみにすることは危険であろう。実際に、大火災の後の強制的な撤去や移転は、深刻な人権侵害であり、中国政府が12年に施行した「行政強制法」にも違反している。同法の第5条は、「非強制的な手段で行政管理目的が達成できる場合は、行政による強行はしてはならない」とし、第43条は「行政機関は住民が生活において必要とする水、電気、暖房、燃料などの提供を停止することによって、当該住民に関連する行政上の決定に従うよう迫ってはならない」と規定している。

本来ならば、専門家による検証、各方面のリスク評価、法律面の確認作業、公聴会の実施など、一連のプロセスを経た上で移転先の確保や移転者への補償の決定などが行われるべきだが、非首都機能の分散を強化する政策はこうした手続きを省き、目標達成に向けたさまざまな作業をスピードアップさせている可能性が高い。また、大半の補償金の支払いや移転のための支援は、土地や不動産の権利を持つ都市戸籍を持つ人たちに対して行われるのであり、家主と賃貸契約を結んで城中村で暮らしていたほとんどの外来人口は、そこには含まれない。

格差拡大で「市民」不在の無法地帯は消えない

都市の人々も、城中村に暮らす人々の助けを必要としている。高齢化が進む都市部において、誰が高齢者の世話をするのか。誰が働く親に代わって子どもの学校の送り迎えをし、食事を作るのか。屋台で食べる朝食も、果物やお菓子を買うのも農民工からだ。建設や工場での重労働を担うのも彼らだ。それでも、こうした農民工や自営業者のために、北京市政府が積極的に家賃の安い公共住宅や低所得層の子どもたちが通える学校を建てるといった支援策を取ることはないだろう。

前述のように戸籍は親から引き継ぐものであり、条件のよい地域の戸籍を持つか否かで、その後の人生が大きく異なる。地域間の経済格差は広がり続け、不平等が解消されるめどは全く立たない。本来ならば、農民や農民工にもっと多くの公的な援助がなされてもよいはずだが、彼らは安価な労働力として都合よく使われ、時には強制的に排除されるというふうに、彼らから収奪する構造が定着してしまった。

城中村が違法行為を横行させる形で発展してしまったのは、格差は容易に解消されないという現実を前に、「法を犯してでも豊かになってみせる」という人たちが後を絶たないからだ。中国社会の格差が大幅に縮小しない限り、「市民」不在の無法地帯=城中村は、強制排除されても、また雨後のタケノコのように生まれてくるのではないだろうか。

(2018年6月 記)

バナー写真:2017年11月北京郊外で発生した大火災後に解体された建物のがれきの山の前を通る出稼ぎ労働者(ロイター/アフロ)