「断捨離できないダメな私」からの解放
では、彼女が「もったいない」精神が行き渡る日本で人気を博したのはなぜだろうか。最大の理由は、自分が大切だと思うモノに感謝の念を込めて触れながら選別し、捨てていくという行為が「もったいない」精神そのものであり、日本人のウェットな心に大きく響いたからではないだろうか。同時に、感謝しながら捨てるというアプローチが、「捨てられない私はダメなやつだ」という強迫観念から解き放ってくれるのかもしれない。ここが、従来の「断捨離」とは大きく異なるように思える。
流行語にもなった「断捨離」を語るとき、私の周りでは断捨離「できる」「できない」という言い方をする人がほとんどだ。周囲の話を聞いていると、断捨離とは一つの優れた能力であるという感覚を、日本人の多くが持っているように見える。「断捨離したんです」という人の多くは、ダイエットに成功した人たちに似て、どこか得意げだ。断捨離に成功したと誰かが言うと、「すごい」「えらい」と称賛されることも多い。
一方、「Zen」の境地を目指す米国のミニマリストは、実際にやってみて初めて持たないことの豊かな精神性を体感し、ミニマリズムの良さを語るわけだが、米国社会全体がミニマリストを礼賛しているかというと、必ずしもそうは見えない。むしろ、場合によっては「変わった人」扱いされたりすることもあるようだ。しかし日本では明らかに、断捨離の「できる」人は「できない」人より、ステータスが上の扱いを受ける。
そこには、「質実剛健」「質素倹約」「華美はいけない」という日本固有の価値観が見え隠れする。ちなみに、質素倹約の精神は八代将軍徳川吉宗の「享保の改革」にさかのぼる。その後明治維新を経て、この価値観は「軍人勅諭」(1882年明治天皇が軍人に下した勅諭)に受け継がれ、さらに学校教育にも浸透し、「華美なものは避ける」「華美にわたらないこと」は、戦後の生活指導と校則の常とう句になっている。日本の中高生は「華美はいけない」「質素こそ素晴らしい」と刷り込まれてきたのだ。
そのおかげで、日本社会では子どもから大人までこの価値観をがっちりと共有しているため、物を捨てられず、片付けられない人間は「だらしのない」ダメ人間という位置付けになる。そこから、“ダンシャリアン”は胸を張り、「私はできない」人たちはその前でうつむく構図が出来上がる。
しかし、「こんまり」さんは、そうしたことを言わない。捨てられず、モノが多いことを「だらしがない」と一蹴せず、「あなたの気持ちや思い出、思い入れを大事にして、もったいないという気持ちを尊重しましょう。一方で、ときめかないものには、感謝しつつ別れを告げしょう」と説く。その言葉が、「もったいない」「いつか使うかもしれない」となかなか思い切りよく捨てられず、結果的にモノに埋もれて暮らす人々の心情に響き、自己肯定感を生むのではないだろうか。
日本では片付けは女性が家庭でする仕事
このように見てくると、近藤さんのアプローチは、米国ではプラグマティックな “clutter-cutting” に、東洋的な精神性を持ち込んだことが注目を集めた一方で、日本では、「片付けねば」という強迫観念を緩めつつ、片付けを進めるという従来の断捨離とは異なる点が評価されたのではないかと思える。
現在、米国で大活躍中の近藤さんだが、Netflixを始めとする彼女が出演するショーを見ていて、日米の片付け方におけるもう一つの違いに気が付いた。それは、男性の役割だ。他の片付け番組を熱心に見たことがあるわけではないので、もしかしたら、「KonMari」ショーに限ってかもしれないが、米国では男性の登場率が非常に高い。彼女が男性に片付け指南をするのだ。しかも、片付ける場所は仕事場であったりする。
これは彼女が社長の片付けコンサルタントをしていたという経緯もあるかもしれないが、日本では職場の片付けという設定はまれである。職場あるいは公私の公の部分を面白おかしくショーに巻き込むことに抵抗があるのかもしれない。片付けといえば、家庭の片付けと日本では何かの理由で相場が決まっているのかもしれない。
日本の番組で片付けの技を紹介する場合、指南を受ける人の多くは女性だ。そのせいか、なんとなく女性の方が片付けが苦手なのではないかという印象を私は持っていた。しかし、Netflixの番組では夫婦そろって指南を受けるケースが多い。そういう意味では、米国のメディアはジェンダーに平等で、男性の片付けへの関心は日本よりも高いかもしれない、と米国人の友人は笑った。
日本では片付け下手で悩む女性は多いが、こうしたメディアの情報発信の在り方が、役割分担を形成したり、一部の苦手意識を形成するという傾向もあるのかもしれないと、日米を比較して改めて考えさせられた。
(2019年3月 記)
バナー写真:米ニューヨークでメディア向けイベントを行った際の近藤麻理恵さん=2018年7月11日(AP/アフロ)