発色の秘訣は摺りにあり
次に、この道40年以上の摺師(すりし)、仲田昇(77歳)さんが、一色ずつ色を付ける作業を始める。最初に伝統的な和紙の上に 「礬水(どうさ)」と呼ばれる液体を塗る。 礬水は明礬(みょうばん)と膠(にかわ)を混ぜて煮たもの。にじみ防止の効果がある。
浮世絵の輪郭線は墨で摺られるのが普通だが、北斎の『神奈川沖浪裏』では藍が用いられる。絵具はすべて鉱物性か植物性のものが使用されていたが、19世紀末頃から色彩鮮やかな化学的なものが出回るようになった。アダチの職人たちは、できる限り江戸時代の頃と同じ絵具を水に溶かして使っている。
摺師はまず、馬毛(尻尾)の刷毛(はけ)を使って版木を水でぬらす。版木が顔料を吸収しやすくするための準備だ。それから摺りにかかる。見本の色に応じて絵具を配合し、一定量の絵具を版木の上にのせ(写真上)、刷毛でしっかりと版木になじませる。それから、「見当」に合わせて紙を版木の上にのせる。摺台と呼ばれる斜めになった木机を前に、摺師はあぐらをかいて「馬連(ばれん)」で紙の上をこする。 摺台は手前が少し高くなっていて、摺る部分が遠くなっても力を十分に伝えられるようになっている。
摺師は、色版について同じ作業を繰り返す。薄い色から始めて、だんだん濃い色に移る。乾燥によって版木が縮んだ場合には、2つの「見当」の位置を調整して、色がずれないように摺る。
摺りは力作業で、これまで摺師はすべて男性だったが、最近では女性の摺師もいる。馬連で摺り込むことで絵具が和紙の繊維の奥深くまで入り込み、味わい深い独特の発色が生まれる。色摺りのほか、紙に凹凸をつけたり、ぼかしを入れるなど、多くのテクニックがある。










