画像センサ、セキュリティなど、ものづくり復権のチャンス?
こうして考えると、日本のものづくりが再び輝きを取り戻す道がないわけではない。特に画像、センサ、セキュリティ、物流、ロボティクス、インフラに関連する企業は大きなチャンスを迎えることになる。これを活かせるかどうか。まさに日本の行く末を左右する鍵だろう。
おそらく、人工知能の産業においては、日本が強かった時期の戦い方と近い戦い方ができる。少なくとも、インターネットによって世界の価値観が多様化した中で苦しめられた環境よりは、よっぽど戦いやすいはずである。ただし、気をつけなければならないこともたくさんある。
まず、第一に、情報産業における日本の遅れは、人工知能という技術の持つ日本との相性やポジティブな要因を補って余りあるほど、とてつもなく大きい。これは、「集団としての不作為」とでもいいようがないほど、日本全体を蝕んでいる。情報技術に対する重要性の集団的な無視、情報技術において必要な学びからの逃避と怠惰、現状を肯定し変化を受け入れない傲慢(ごうまん)さが長年続けられた結果である。
これは日本文化としての年功序列や流動性のなさ、言語の壁など、さまざまな問題とからみ合っているので、一概に切り捨てることもできないと思うが、いずれにしても、情報技術は昨今の日本のGDPの伸びの大半を作り出しているにも関わらず、あまりに国全体での扱いが軽すぎる。したがって、いくら人工知能が善戦したとしても、なんとか勝負に持ち込めるかどうかというレベルであって、基本的には圧倒的に不利な状況にあることは理解したほうがよい。
第二に、ディープラーニングをきっかけに次々に新しい技術が生まれている。これに一刻も早くキャッチアップできるか。そして、「本当に勝つ」つもりで動いていけるか。企業も国も、「勝つために振る価値のあるサイコロを振れるか」。投資したふりをするのは簡単である。大企業でも大きな組織でも、責任を取らないような中途半端な意思決定が横行している。
勝負するのなら、思い切っていくしかない。あるいは、思い切ってできる人に任せるしかない。若い世代へ責任と権限を委譲していくことも必要だろう。次の時代に本気で勝ちにいくために、行動することが必要だろう。
第三に、日本の中いかにイマジネーションを高め、人工知能が切り拓く新しい未来のイメージを社会で共有していけるか。人工知能は、社会のための技術である。しかし、さまざまな価値観の問題を改めて問い直させる。これを日本が真っ先に捉えることが必要だろう。そして、次々と新しいものが(ガラパゴス的になったとしても)生まれてくるようになれば、一つの勝ちパターンに持ちこめるのではないだろうか。
ドワンゴなど国内で加速する動き
これまでのところ、国内での動きはそれほど悪くない。国も企業も、比較的早いスピードでこの動きに追随し、チャンスを活かそうとしている。企業では、ドワンゴがいち早く人工知能研究所を立ち上げ、リクルートをはじめとして大手の企業でもこれに追随する動きが活発だ。
ベンチャーも次々に立ち上がっている。最も技術力のあるPFI(プリファードインフラストラクチャ)は、PFN(プリファードネットワークス)という、ディープラーニングと「モノのインターネット」(Internet of Things:IoT)に特化した会社を立ち上げた。日本の産業界における期待の星である。
経産省は、産総研AIセンターを立ちあげ、中国のマイクロソフト研究所にいた元東大教授の辻井潤一氏をトップに据え、着々と人材の獲得と体制づくりを進めている。文科省でも科学技術における次の大きな流れとして人工知能についての検討が進んでいる。総務省は、通信と知能の新しい未来を見据えて、シンギュラリティまで含んだ議論を展開している。私自身も東京大学のなかにいち早く人工知能(ディープラーニング)の教育プログラムを作ろうとしているが、企業からの支援の声も暖かい。
人工知能技術で世界をリードする気概を!
予断は許さないが、チャンスは大きい。これまでのところの動きも悪くない。我々は、自分たちの子孫の時代に大きな負債ではなく、大きな資産を残せるかもしれない状況にいる。
このチャンスを活かせるだろうか。もう一度、世界に立ち向かう意思があるだろうか。人工知能の技術を、日本が拠点となって世界をリードしていく意思はあるのだろうか。あるいは、戦いに加わらず、米国を、シリコンバレーを後追い、評論家の立場として安全なところから物語るだけの存在で良いのだろうか。
人工知能ブームを正しい方向に花開かせたい。日本のものづくりの復権のチャンスは、人工知能にある。少ない人口でも、生産性が衰えずに快適な暮らしを実現できるかもしれない。社会全体が便利で安心・安全になり、人間はより人間的な仕事や生活を行うことができるようになる、そういった未来社会を日本が中心になって作り出せるかもしれない。
しかし、実現するのはいつの時代も意思の力である。そのために、どうしたらいいか。一人ひとりが考え、動いていこう。
バナー写真:2011年、IBMが開発した人工知能「ワトソン」(中央)は、米国の人気クイズ番組「ジョパディ!」で、人間の回答者を次々に破って優勝した=写真は練習ラウンドの様子(AP/アフロ)