女性活用の遅れは経済の伸びしろ

欧米先進諸国と比較すると、日本は職場での技術革新で大きな遅れを取っている。「当然、女性の活躍推進でも欧米先進国から数十年遅れています。私はBTジャパンで初めての女性社長ですが、女性、LGBT、障害者、移民など、雇用におけるダイバーシティー(多様性)を積極的に進めているロンドン本社のマネジメントでさえ、私を社長に抜てきすることはかなりの思い切った決断でした。ですから、日本ではもっと意識的に思い切った決断をしなければなりませんね」

日本女性の優秀さは国際社会でも認定されていると吉田さんは言う。「OECDの調査によれば、日本女性の "literacy"(読解力)、“numeracy" (数学的思考能力)は世界のトップレベルです」。にもかかわらず、世界経済フォーラム(WEF)の2016年版「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本の順位は調査対象144カ国のうち111位で過去最低を記録した。「悲観的にばかりなっても仕方ありません。日本の改革が遅れているということは、それだけ経済の伸びしろが大きいということ。1億3千万人の半分が女性だとして、これは世界のアセット(資産)です。このポテンシャルをどう生かすのか。みんなで考えて実践しなくては。改革の痛みはあるが、その痛みは成長のための痛みだから、ためらってはだめ」

ビジネスの現場では、「女性の躍動感」を実感しているという吉田さん。一方、深刻化するシングルマザーの家庭や子どもの貧困問題にも危機感を持つ。厚生労働省の調査(2012年)では、18歳未満の6人に1人、シングルマザーなど1人親世帯は50%以上が貧困状況だ。「高い潜在能力を持つ子どもたちは将来の大切な人材。能力を引き出して伸ばすための十分な教育の機会を与えられないとしたら、日本にとって大きな損失です。政府も財界も、子どもたちの問題にしっかり取り組むべき」。シングルマザーたちの生き抜かなければという「強い欲求」を、経済のエネルギーに変換する仕組みづくりがきっとできる、と力強く言う。

優秀な日本女性は世界のアセット(資産)と強調する

自己実現を追究、人生を最大限に生きて輝く

技術革新、デジタル化は霞が関(行政の現場)から率先して進め、官民一体で取り組まなくては「Society 5.0」の実現はあり得ない。ただ、技術革新だけではなく、個人の高いモチベーション、自己実現への強い欲求を持つことが社会の変革には大事だと吉田さんは力説する。「継続的な変革のためには、モチベーションを生かすための仕組みが必要だし、女性人材が社会進出できない規制は取り除くべき。社会保障や税制などを含めた制度改革、賃金とリンクする評価システム、モチベーションを引き出して指揮するリーダー、この3つの要素が大事です」

ただし、「『女性が輝く』とは、誰もがリーダーになるという意味ではない」と吉田さん。どんな業界分野にいても、技術革新を使って、子育て、介護もこなし、好きなことを追究する。自らの意志を持って自分の人生を最大限に広げられる女性が輝く。そのために、「自分の個性、強みをどれだけ強化できるか、日々切磋琢磨(せっさたくま)が必要」だと言う。より個人に軸足が置かれた社会には厳しさもある。「でも、自分を振り返ると、危機的な状況でこそ強くなって、チャンスをつかむことができるのです」

人生80年、90年の時代。ワークライフバランスを考える際は、1日単位や月単位ではなく、長い人生のスパンで考えるべきだと吉田さんは言う。「娘には10代の頃は寂しい思いをさせた。これからが挽回のとき。社会人となった娘を大いにサポートして、将来は孫の面倒も見るつもり。70歳で公園デビューを考えています。そういうバランスの取り方もあるのです」

(参考)【Society 5.0】

2016年内閣府の総合科学技術・イノベーション会議がまとめた「第5期科学技術基本計画」の中心的な概念。科学技術基本計画は1995年に施行した科学技術基本法に基づき、5年ごとに改定する。第5期は2016年度から20年度まで。「自ら大きな変化を起こし、大変革時代を先導していくため、非連続なイノベーションを生み出す研究開発を強化し、新しい価値やサービスが次々と創出される『超スマート社会』を世界に先駆けて実現するための一連の取組を更に深化させつつ『Society 5.0』として強力に推進する」(内閣府ホームページ)

取材・構成:ニッポンドットコム編集部 板倉 君枝/大谷 清英(撮影)