破天荒上等。日本文化を再定義し未来を開く

オリジナルの茶を作り、渋谷に拠点も構えた。肝心なのは、ここからいかにして認知度を高めていくか。

「単に茶葉を売るのではなく、日本茶を楽しむ時間や新しいライフスタイルを提案したい。その一例として、容器にティーバッグと水を入れ、振るだけですぐに味わえる水出し茶を作りました。これなら急須や湯飲みを持たず、お茶の淹(い)れ方も知らない若者や外国人も手軽に楽しむことができます。まず興味を持ってもらい、次に器などの道具を手にしていただく。これまで手がけてきたものづくりとお茶が、ここでつながってくるわけです」

間口を広げたいという言葉通り、幻幻庵は渋谷のストリートテイストが漂うカウンター中心の空間。客層も今風の若者たちの姿が目立つ。メニューは「釜炒り茶」や「ほうじ茶」などの定番から、「カモミールほうじ茶」や冷たい「レモングラス緑茶」などの変わり種まで。テイクアウト主体のため、器はカフェを思わせる使い捨てカップが中心だ。

「お茶というものを再定義したい。『作法がなっていない』『日本文化をナメている』と言う人がいるかもしれませんが、日本文化には本来、固定観念をひっくり返し続けてきた破天荒な側面があるはず。明治時代に焼き物を輸出したときの包み紙の一部に春画が使われ、絵柄だけでなく作品としてのクオリティの高さが西洋の人々の度肝を抜いたという逸話は、そのことをよく表していると思います」

幻幻庵のカウンターで水出し茶を入れる丸若

世界での勝負も既に始まっている。9月に開催されたデザイン・インテリアの世界的見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」では、日本を代表するクリエイティブ集団・チームラボとともに一服の茶の中に花や宇宙を映し出すデジタルインスタレーション作品を発表した(リンク:日本のお茶が世界をつなぐ—茶碗の宇宙に咲くデジタルの花)。

このとき初めて掲げられたブランド名は「EN TEA」。さまざまな物事がつながる“縁”の考え方や、禅画の「円相図」のように和合する日本文化の精神性を表現した。

「決して文化の押し売りをしたいわけじゃない。日本を知らない地球の裏側の子どもたちにも愛してもらえるような、言葉を超えたお茶を届けたい。その一念です」

そう語る丸若が敬愛し、自身の姿を重ねるのが、江戸時代の禅僧・売茶翁(ばいさおう)だ。

「権威化した茶道に対して、中国の茶師の格好をして路傍で煎茶を点てながら哲学的な対話を重ね、評判を呼んだ人物です。300年前にこんなにパンクで破天荒な人がいたんだと、興味を抱きました。『幻幻庵』の名は、彼の最期の住処から。日本文化だからと大上段に構えるのではなく、『何だか面白そうだし、飲んでみたら美味しいじゃん!』と受け入れられるほうが、よほど本質的だと思うんです。日本の未来に貢献したいという気持ちはもちろんあるけれど、お茶や伝統工芸の状況を変えたいからではなく、あくまで自分が好きなもので世界と勝負したい。それが結果として世の中の変化につながっていったなら、嬉しいですね」

取材・文=深沢 慶太
写真=大河内 禎