東へ南へ西太平洋へ
中国軍が宮古海峡とバシー海峡を通過する訓練を行っているのは、いわゆる第一列島線の突破口となるのがこれらの海域だからだ。ここを突破できなければ、西太平洋に軍を送り込めない中国は第一列島線内に逼塞(ひっそく)されるだけである。アメリカ軍への対抗を考えたとき、中国軍は西太平洋上での戦力投射能力を高める必要がある。中国空軍機の飛行経路の拡大や多種類の軍用機による飛行などはその能力向上のためであり、中国空軍はその訓練を複雑化・高度化させてる。ある意味で素直な発展とも言えるし、活動範囲や経路の多様化は中国海軍の後を追っている感もある。
日本周辺における他国海空軍の活動という視点では、ソ連時代から現在のロシアが参考になる。統合幕僚監部が発表した飛行経路図を見ると、ロシア軍機による日本周辺での飛行はTu-142偵察機やIl-38哨戒機、電子偵察機などが用いられる。報告されているロシア空軍機の基本的な飛行コースは北海道と東北、関東地方沿岸の空域にまで南下するもので、日本海側を飛行する場合もおおむね竹島東部空域までの飛行が多い。戦略爆撃機Tu-95型機(航続距離1万5000km)が日本を一周する飛行経路をとることもある。最近では2017年1月24日に3機が反時計回りに日本周辺を飛行したことが確認されている。
ロシア軍機や最近の中国軍機の飛行事例から推測すると、中国空軍は今後も東シナ海空域での飛行を中心としながらも、日本の沖縄、九州、四国、本州周辺空域にまで足を伸ばすようになると予想される。日本の対応を探る中国空軍版の「東京急行」のような飛行を行う可能性もある。それとともに、中国軍の目的が東アジア地域におけるアメリカ軍への対抗である以上、九州や本州周辺海域だけでなく、当然グアム島を目指す飛行も今後は実施することになるだろう。そのための訓練と日本へのけん制を兼ねて、硫黄島や沖ノ鳥島を目指す飛行が行われることも考えられる。
では、ロシア軍機のように中国軍機が日本全土を周回飛行する事態は起こり得るのだろうか。理論的には考えられなくはない。ただし、オホーツク海はロシアが「内海」と認識している海域で、中国の砕氷船雪龍が同海を航行した際に、それに合わせてミサイル発射訓練を同海で行ったこともある。それを考えると、公海の上空とはいえ、中国軍機の飛行は大きなあつれきを中露間に生みかねず、中国があえてそうしたことを行う可能性は現時点では高くないと判断できる。では、津軽海峡上に設定された狭い公海の上空を飛行することがあり得るだろうか。これも理論上否定はできないものの、ほんのわずかに飛行経路がずれただけで領空侵犯になる可能性が高い。仮に領空侵犯にならなくとも、そのような狭い空域に軍用機を飛ばすのは許容し難たいとして日本政府が中国に厳重な抗議を行うことは十分に予想される。中国軍機が日本周辺空域を飛行する理由としては、電波情報や電子情報の収集、長距離飛行訓練、示威行動などが考えられる。しかし、それらのためにロシアや日本との関係を著しく悪化させるのは割に合わない行動であるため、宗谷海峡にせよ津軽海峡にせよ、それらを通過する空軍活動を行う可能性は現状では低いと考えられる。