次世代につなげるメッセージ
「七十一日的台湾白百合」の脚本・演出を務めた馬場は、2015年に過激派組織「イスラム国」(IS)に殺害されたジャーナリスト、後藤健二をモデルにした演劇「イマジナリーライン(超えてはいけない一線)」を制作するなど、社会問題をテーマにした作品を関西ベースで送り出してきた。こうした姿勢に共鳴するファンの勧めでアジアへの展開を模索し、17年6月に台湾を訪問。訪台前、演劇や音楽などの表現活動を通じて知り合った神戸市のシンガーソングライターの矢谷トモヨシ(53)に連絡したところ、小林の活動や白色テロについて聞かされ、鄭南榕紀念館への訪問を勧められている。
小林は生前、矢谷らに「次は若いやつらがおる」と語っていたという。白色テロの受難者を支援した経験をどう引き継ぐか。小林の没後、その報告のために台湾へ行った矢谷は、鄭南榕紀念館の理事などを務める人権活動家、曹欽栄氏からこの言葉をあらためて聞かされ、「おれは何をつないでいけるやろ」と自問した。馬場に鄭南榕のことを伝えたのは、矢谷なりの答えということになる。
馬場は言う。「戒厳令の後の民主化に、今の日本は学ぶことがいっぱいある。日本では、共謀罪ができて、何かを口に出すことをみんな、かなり恐れている空気がある。『言論の自由は日本で守られているのだろうか? 守られてないよね』という感じだ。この状況を疑問にすら思ってない人もいるのではないか」。矢谷は「政治のにおいのするものには関わらんでおこうという風潮が顕著。それこそ戒厳令下の台湾のような状態」とストレートに言う。
戒厳令下の言論弾圧にあらがった鄭の姿は、日本の民主主義や言論の状況に向かって問いを打ち返してきた。
台湾での白いユリは自由の象徴
「七十一日的台湾白百合」では、ギャグやドタバタ、ダンス、音楽がこれでもかと押してくる。馬場は「ギャグがなかったら、しんどい。笑いがないと、心が開(あ)かないからメッセージが入っていかない」と演出の意図を明かした。主演の渡辺慧美(31)も「笑いと音楽ですね」と、伝えるためのツールに目配りする。
舞台は二つの物語が同時並行で進んでいく構成。ゴシップネタを売りにする雑誌記者のタマキが友人を追って台湾へ行き、言論の自由の大切さに気付いていくというストーリーを「動」とすれば、鄭とその娘が白いユリを育てながら会話を交わす姿が「静」だ。
白いユリは台湾では、現実の政治が見せる醜さやその暗部に対置され、高潔さや民主の象徴として掲げられることが多い。国家人権博物館の開所式では、一輪の白いユリを象徴的な存在とするダンスが披露されている。
馬場が白いユリに代表させたものも「民主主義という思想」である。タマキを演じた渡辺は「台湾のお客さんの感想が印象的だった。『白いユリは、台湾の自由や言論の自由を象徴してたんでしょ?』と」。馬場は「脚本家の意図をちゃんとくみ取ってくれる。台湾の人たちはその力が強い」と振り返る。
「次は若いやつらがおる」と言った小林とは、馬場も渡辺も面識はない。ただ、矢谷がつないだことをきっかけに、焼身自殺で世を去った鄭の姿を演劇という形でよみがえらせた。白色テロの経験や言論の自由の重みは、大阪のステージを飛び出し、台北、東京へと広がっていく。
参考文献
- 周佩蓉ら編『剩下就是你們的事了 行動的哲学家鄭南榕 The Wings of Freedom』(書林出版、2013年)
- 小林隆二郎「沖縄・与那国島から台湾への旅 私の自由への長い旅立ち(前篇)」『ばとこいあ通信』41号(ばとこいあ神戸事務局、2008年)
- 小池康仁『琉球列島の「密貿易」と境界線 1949-51』(森話社、2015年)
- 琉球政府主税局泊税関「密輸情報関係書類 1965年~1968年 旅客名簿 台湾高等法院刑事判定」(沖縄県公文書館蔵、資料コードR00017664B)

