殺伐とした戦いの中で描かれるかすかな希望

長寿の秘密は「ガンダムの歴史的感覚」にもある。「壮大な時間と空間の一部を切り取って見せている」という「叙事詩的視点」に加え、宇宙移民者時代の「宇宙世紀(Universal Century:UC)」を「新たな暦」として設定したことは画期的だった。その結果、作品終了後も「宇宙世紀年表」が作り続けられることになった。放送後にヒットした商材「ガンダム・プラモデル(通称ガンプラ)」と年表との相乗効果で、「作品に描かれていない世界」の拡大が始まった。合金玩具と違い、プラモデルは塗装や改造で「ユーザー・オリジナル」が生み出せる素材だ。さらに、漫画や小説でのオリジナルストーリーも発表され、「一年戦争」(地球連邦政府に対して独立を求めて宣戦布告をしたジオン公国(*1)の独立戦争)に集合知的な細部が補強されていった。

2015年、「ガンプラ」生誕35周年記念企画で発売された「HGUC1/144スケールRX-78-2ガンダム」。バンダイ提供(時事)
2015年、「ガンプラ」生誕35周年記念企画で発売された「HGUC1/144スケールRX-78-2ガンダム」。バンダイ提供(時事)

やはり「ガンダム世界」が大きく拡大できた理由は、オリジナル作品であるがゆえの自由度にある。原作がある場合はそこから大きく逸脱することは許されないが、描かれていない部分を自由に想像できる性質のお陰でファンが積極的に作品世界へ参加することも可能となった。その結果、観客として楽しむだけにとどまらず、ガンダムで描かれたことを糧に現実を変えていこうとする人が大勢現れることになった。冒頭のプロジェクトもその一例である。また、どんな設定を付け足しても揺るがない「物語の強さ」は、世代を超えた人気の決定的要因である。アムロ・レイという10代のナイーブな主人公の少年は、戦争がもたらす圧倒的な暴力と、大人社会の理不尽なふるまいの中で、さまざまな感情を抱え、時に爆発させる。同時に戦いの中で、かけがえのない「仲間」も見つけていく……。

この普遍的な少年の成長物語は、やがて「宇宙に進出した人類の進化」という「ニュータイプ(*2)論」へと展開していく。宇宙という無限に近い空間と可能性を手にした人類は、戦争の時代を脱し、互いに分かり合えるようになるかもしれない。そんなかすかな「希望」がストーリーの終盤で示される。どんなに時代が進もうとも人が変わらない以上、「分かり合えない」という「絶望」は常にあるはずだ。だが、ほんの少しでも認識の持ちようを変えるだけで、「希望」に近づけるかもしれない。そんな「願い」が、モビルスーツによる戦闘を中心に描かれる殺伐とした戦争に、ほのかな光を与えている。

「機動戦士ガンダム」のエンディングテーマ「永遠にアムロ」のワンシーン ©創通・サンライズ
「機動戦士ガンダム」のエンディングテーマ「永遠にアムロ」のワンシーン ©創通・サンライズ

未来の戦争に巻きこまれたティーンエージャーに寄り添って、親近感あふれる青春群像劇をドキュメンタリータッチで追い続けた『機動戦士ガンダム』。しかし、それだけにとどまらず、戦いを通じて「現実を変える力」を示し、人の可能性を照らし出した前向きな希望こそがガンダム最大の魅力である。その裏付けがあるからこそ、ガンプラ人気も持続した。この緊密な構造が、他に類例を見ないロングランの根幹を支えているのではないだろうか。

バナー写真=第2話「 ガンダム破壊命令」にてガンダムがビーム・ライフルでシャア専用ザクⅡを狙い撃つシーン ©創通・サンライズ

(*1) ^ 『ガンダムシリーズ』に登場する架空の国家。『機動戦士ガンダム』では、主人公アムロ・レイが所属する地球連邦軍の敵対勢力として登場する。

(*2) ^ 宇宙空間の環境に適応して、特異な能力を持つようになった新しい人類。