中国大陸の味、牛肉麺

肉のほかスジやハチノスなども入った「牛肉三宝麺」(筆者撮影)
肉のほかスジやハチノスなども入った「牛肉三宝麺」(筆者撮影)

台湾のメジャーな牛肉料理には他に牛肉スープと牛肉麺が挙げられる。

台湾南部台南の名物料理の牛肉スープに使われる肉は「温体牛肉」と呼ばれ、解体直後の国産牛肉だ。乳牛が多いとされ、郊外の食肉処理場から届けられる生肉を、薄く切ってお碗に入れ、玉ねぎやリンゴから出汁を取った透明な熱々のスープを勢いよく注ぎ込み、まだ肉に赤みがさしている内に食すべきものとされている。筆者も帰省のさい即席の牛肉湯を作って家族にふるまうことがあり、なかなか好評だ。これは21世紀に入ってから流行したもののようだ。

牛肉麺は台湾全土で食べられている中国大陸由来の料理である。台湾には「眷村」と呼ばれる、戦後大陸から渡ってきた軍人・教師・公務員とその家族たちがかたまって暮らす集落が数多くあった。台南空港に近い「二空」もその眷村の一つだ。筆者が体調を崩したときに世話してくれた人が、夫婦で経営する二空の牛肉麺の店に連れて行ってくれたことがある。路と店を仕切る壁も、看板さえもない、こじんまりとした店だった。赤茶色のスープの濃厚な味わい、ごろごろと浮かぶ牛肉の柔らかさ。初めて口にした牛肉麺は感動的な美味しさだった。夫婦は代金を受け取らなかった。しばらくして大規模な再開発がなされ、高層マンションが建って、夫婦の行方も分からなくなった。今なお、あの時の牛肉麺をしのぐものにはめぐり会えずにいる。

かつて「食えば地獄は免れ難し」とまで言い伝えられていた牛肉も、日本経由で伝わり、中国やアメリカ出身者など外来文化の影響を受けながら、広く大衆に食されるようになった。忌避の原因であった農業での働き手=牛という点も農業の機械化にともない労働力としての役割を終えたが、台湾の一部の家庭に受け継がれている「家訓」のゆえに、今でも牛肉を食べない人は非常に多い。動物に対する愛情と、祖先が守った価値観を重んじる台湾人の意識がうかがえ、筆者は深い敬意を覚える。

牛肉スープは、生肉に熱々のスープを注いですぐ食べる(筆者撮影)
牛肉スープは、生肉に熱々のスープを注いですぐ食べる(筆者撮影)

バナー写真=鶏肉やヘチマなど、彩り豊かな台湾のすき焼き(筆者撮影)