米中“新冷戦”

これからの国際情勢分析に欠かせない「米中“新冷戦”」

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長い連休を有意義に過ごすために、各分野のホットなテーマを掘り下げたnippon.comの「In-depth」を再読するのもいい。これからの国際情勢分析に欠かせない「米中“新冷戦”」については、3人の識者が論じている。

米国と中国の“新冷戦”は貿易分野だけでなく、安全保障・軍事分野、次世代通信の技術覇権争いなどに拡大している。先行きや問題点などについて、識者3人が鋭く分析した。その要約を紹介する。

「三重苦に悩む中国経済」

著者:津上俊哉(現代中国研究家)

明るくない中国経済の未来

最近メディアでは「中国経済の減速」がよく取り上げられる。これを「米中貿易戦争のせいだ」と解説すると分かりやすいが、真実ではない。貿易戦争は中国経済が直面する「三重苦」の一つでしかない。

三重苦の第一は、中国経済最大の問題である「負債の急膨張」だ。リーマンショックの翌年(2009年)から始まった投資ブームが行き過ぎて、効率の悪い投資が止まらないためだ。

第二の苦は「民営企業の苦境」。中国経済の過半を占める民営企業は、国有企業よりもずっと経営効率が高い。しかし、政府や中央直轄大企業など「官」に富や資源が集中し、民営企業は発展できない。習近平政権には国有利権にメスを入れる本気はうかがえない。

第三の苦が「貿易戦争」だ。米中貿易戦争の先行き不透明感は、中国のみならず、米国を含む世界経済に悪影響を及ぼし始めた。トランプ大統領も昨年末に米国株価が急落して以降は、貿易戦争を激化させることに慎重になった。この結果、米中首脳会談が予定されるようになった。

中国警戒感の過剰反応

中国の財政は今後、老齢化の急速な進行により年金債務が重くのし掛かる。一人っ子政策を続け過ぎた結果、中国は超低出生率の罠(わな)に落ちた。中国経済の未来は決して明るいとは言えない。

最近の気懸かりは、安全保障や諜報(ちょうほう)活動を重視する超党派の米国主流派が始めた「ハイテク冷戦」の方である。この冷戦が情報技術(IT)産業をさらに痛撃して世界経済を巻き込む惨事に発展しないか心配だ。中国警戒感は「米国をしのぐ超大国になる」ことを前提としたが、そんな未来はないのだとすれば、世界はこの警戒感がハイテク冷戦など、誰も勝者になり得ない過剰反応を生んでいることにも気付くべきである。

記事全文〉三重苦に悩む中国経済

https://www.nippon.com/ja/in-depth/a06302/

「狙い撃ちされる中国の地技学的台頭」

著者:土屋大洋(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授) 

米露とは違う米中対立

ペンス米副大統領が2月、ドイツでの民間主催の国際会議で中国を強く批判した。中国のITメーカーであるファーウェイや中国の通信企業は、「中国の法律で北京の巨大なセキュリティ組織にデータを提供するよう要求されている」と。

中国の楊潔篪・前外相は反論した。「ファーウェイはヨーロッパ諸国にとても密接に協力している会社だ。中国の法律は、企業に情報を集めることは求めていない」と。この発言を疑問視する声は強い。国防法や国防動員法、サイバーセキュリティ法などを使えば、中国共産党、政府、人民解放軍は中国の民間企業を通じた情報収集は可能だと見られているからだ。

米中対立は、米露対立とは様相が違う。米ソとして冷戦を戦った両国間の経済的な相互依存関係は低く、現在の米露間も同じだ。しかし、中国の発展は米国からの寛大な支援によって支えられてきた。中国がいずれは民主化し、米国が望む大国になるだろうという心情的な親中派が少なからずいた。ところが、中国は民主化を進めず、米国の技術を不正な形で盗みながら米国の覇権に挑戦している。

高齢化社会に進むことが明らかな中国は、今のうちにできるだけ高みに登っておきたい。そのためには人工知能をはじめとする新たな技術において、米国を凌駕(りょうが)する優位を築かなくてはならない。それに対して米国は、技術覇権国の地位を明け渡さないために中国への技術移転を徹底的に封じ込め、中国の技術的台頭を食い止めようとしている。

記事全文〉狙い撃ちされる中国の地技学的台頭:テクノヘゲモニー論再考

https://www.nippon.com/ja/in-depth/a06301/

「米国の対中競争路線:2つの『戦略』が水面下でせめぎあい」 

著者:森聡(法政大学法学部教授) 

一枚岩ではないトランプ政権

トランプ政権内では、経済タカ派路線、対中関係を安定化させようとする調整路線、国防タカ派路線といった陣営に分かれている。これらの陣営がそれぞれの目標を追求する中で、トランプ大統領が個別の判断を下しているとみられる。

現在の局面において、米国政府が対中競争路線で一斉に走っているように見えるが、対中戦略について一枚岩ではない。対中競争路線には2つの理念型があり、水面下で静かな論争がある。

実質的な論争は、「集団的対抗」と「包括的圧力」との間で行われている。集団的対抗とは、中国がリスク回避的であるとの前提の下、地域諸国を米国につなぎ留めることによって、中国による地域覇権確立を阻み、やがて中国の穏健化を導くという戦略を指す。一方、包括的圧力とは、中国がリスク受容的であるという前提の下、中国の台頭を減速させることで米国のポジションを保全し、中国が地域や世界秩序を変革してしまう前に中国の勢いを削ぐ戦略だ。

米中両政府は広範な争点について交渉中であり、近く合意に至るとする予想がある。米国の対中競争路線の核心には、米国のテクノロジーと知的財産の保護という産業と安全保障が交錯する問題があり、同時にトランプ大統領は対中貿易赤字の削減を重視している。

もし中国が問題解決に向けた結果を示せれば、対中競争路線がなくなりはしないものの、深く潜航したところで力強く推進されるような流れが生まれるかもしれない。他方、中国の対応が不十分だと、さらに圧力を強化すべきとの声が広がり、米中競争はさらに「劇場化」されるであろう。

記事全文〉米国の対中競争路線:2つの「戦略」が水面下でせめぎあい

https://www.nippon.com/ja/in-depth/a06303/

日本も無関係ではいられない

3つの論考を読むと、中国経済は国内の高齢化社会を迎えるなどの課題もあり、これまでの成長は無理だと分かる。津上氏が指摘しているように、大型減税など中国政府の大盤振る舞いは、バブル崩壊の後の経済落ち込みを財政で下支えしようとした20年前の日本によく似ている。“限界”を一番感じている中国は、米中対立の激化が無意味なことを理解しているはずだ。

日中関係が最近、ようやく改善されつつあるが、中国は親トランプ政権の日本に何を期待しているのだろうか。日本は世界が注目する米中“新冷戦”と、無関係でいるわけにはいかない。

構成・文:斉藤勝久(ジャーナリスト)

バナー写真: G20首脳会議が行われたアルゼンチンで、首脳会談に臨むドナルド・トランプ米大統領と習近平・中国国家主席=2018年12月1日(ロイター/アフロ)

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