《広がるICT学習2》『すらら にほんご』外国人向けタブレット教材の内容とは
社会 文化 暮らし 言語 国際交流- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
アニメと字幕で「ゼロ」から
日本語教育のICT教材として広がりつつあるのが、すららネット(東京・千代田区)が2023年4月に提供を始めた『すらら にほんご』だ。日本語教育の専門家が監修し、日本語のナレーションと母語の字幕、アニメーションによって、日本語が全くわからない状態からでも学べる教材になっている。

キャラクターが登場し、会話の学習ができる『すらら にほんご』の画面。下部には各言語の字幕があり、理解を助ける。字幕はクメール語
「レクチャー」のコーナーは、文字や言葉の説明、文法などについて、キャラクターが日本語で話しかけながら進む。ひと通り学ぶと「ドリル」に移り、選択問題や会話の並び替えなどの練習問題を解く。「テスト」では、人工知能(AI)の分析で理解が進んでいれば難しい問題を、つまずきがあれば同じ部分を繰り返し出題する。
アニメによるレクチャーやフィードバック、スモールステップの反復を通じ、自分のペースで学習を進められる。また、インプットとアウトプットの繰り返しによって定着を図る。収録単元は約500、問題は約1万問ある。
課題は集中力と継続。授業で使う場合はタブレット任せの学習にしないよう、教師向けのマニュアルや教材を用意し、教師が補足しながら学習を進めることもできる。
楽しみながら学習を続ける工夫もある。例えば、同じ単元を学ぶ人同士で学習時間をランキング化するなど、ゲームの要素を取り入れている。単元をクリアするとアイテムや称号が獲得でき、習熟度に応じキャラクターが成長する。
現在は英語、カンボジアのクメール語、インドネシア語の字幕を用意。耳から日本語を認識し、目で字幕を追って理解もできる。26年秋ごろまでにネパール語や中国語など新たに12言語に対応する。国内外でのべ約8000人が利用し、日本語学校のほか公立小中学校や夜間中学校、私立高校、外国人向けの学習塾、海外の日本語教育施設などで導入が広がる。
夜間中学や小中学校で導入
国内で『すらら にほんご』を活用している例の1つが、外国ルーツの生徒が多く在籍する夜間中学だ。静岡県立ふじのくに中学校では2025年4月から導入。初年度は日本語指導が必要な約20人が活用した。従来の一斉指導に加え、生徒は空き時間や自宅で個別に学べるようになった。
青木正文教諭は「ひらがなの習得が必要な子や、会話はできても読み書きが難しい子など日本語レベルは多様。そんな生徒たちに、専任教員がいなくても日本語を習得させる方法を模索してきました。『すらら にほんご』は、端末さえあれば1人でも学習できるので、学校での授業だけでなく自宅などで自習する生徒も出てきました。日常の日本語会話がわかるようになるなど、学習効果も表れてきています」と語る。
導入後2カ月時点での生徒アンケートでは、以前と比べ「勉強が楽しい」と感じた生徒、「日本語の授業がよくわかるようになった」と答えた生徒はともに9割近くを占めた。
学校側からは、すららネットに「今まで母語同士で話していた生徒が、言葉と会話のパートを学習してから、日本語で話すようになった」との報告も届いている。生徒も教員も手応えを感じているようだ。
福岡県の久留米市教育委員会は、25年9月に小中学校の日本語教育に『すらら にほんご』を導入した。それまでは、各学校で日本語指導ができる時間は限られていたが、導入後は一時的に別室で復習や補充学習を行ったり、家庭学習(宿題)で活用したりするなど、子どもたちが自主的に日本語を学ぶことができる環境が整ったという。
また、外国人を受け入れる学習塾などでも利用が増えている。

群馬県館林市の進学塾クエストではミャンマーにルーツがある生徒らのため、『すらら にほんご』を導入した(進学塾クエスト提供)
導入を支援する、すららネットマーケティング本部公共ソリューショングループの増永梨奈サブマネージャーは、「より多くの子がいつでも学習できる環境を届けられるところに、ICTの良さを感じていただいているようです」と話す。
課題解決をビジネスに
すららネットは2007年から、不登校などの児童生徒が自宅学習できるタブレット教材として日本人向けの『すらら』を提供。『すらら にほんご』開発の出発点は、外国人が急増する中で日本語を教えるスタッフを十分に確保できていない自治体や学校が多いという現実を知ったためだ。
日本語能力の不足で授業に付いていけず不登校になったり、高校を中退したりする生徒も少なくない。企画開発本部コンテンツグループの坪田未歩マネージャーは、「『すらら』の誰でもゼロからわかるコンテンツづくりの強みを生かして、日本語教育の現場でお手伝いしたいと考えました」と振り返る。

『すらら にほんご』を開発するすららネットの社員(nippon.com編集部 松本創一撮影)
標準イントネーションと「非言語」で学ぶ
『すらら にほんご』の特長の1つは、正しいイントネーションで学べる点にある。自動音声を使ったICT教材もあるが、イントネーションがぎこちない場合がある。そのため声優による標準の発音を収録し、正しい日本語に耳を慣らすことで上達を目指す。
もう1つは日本語のニュアンスを伝える仕組みだ。例えば「食べるところです」「食べているところです」「食べたところです」の使い分けは、言葉による説明が難しい。そこで、アニメやピクトグラムなどを使って微妙な違いがわかるようにしている。
坪田マネージャーは「日本人であれば感覚的に理解できることでも、外国がルーツの方には理解できるベースがありません。(日本人の)国語と同じ感覚で教えるのではニュアンスまで伝え切ることは難しい」と説明。その上で「ニュアンスをいかに非言語で伝えるのかについて苦心しました」と明かした。
JLPTテスト対策にも対応
日本語能力試験(JLPT)の最も初歩的な「N5」と日常会話レベルの「N4」に対応しており、2025年11月には実際のテストと同様の形式で問題に取り組めるJLPTテスト対策コースを搭載した。今後はさらに上のレベルにも対応できるように開発を進める。また、26年4月からは、教科のドリル学習ができるデジタル教材『Surara-i』の提供を開始。『すらら にほんご』との併用によって、日本語教育から教科学習につなげやすくするのが目的だ。
外国がルーツの児童生徒は、親の都合で日本に来たケースも少なくない。日本で育つ子どもたちに必要な日本語教育を提供するためには、双方向で学べるICT教材の有用性が大きい。すららネットは自治体や学校とともに課題の解決に向け、教材を開発していく方針だ。
『すらら』以外にもICTを活用した教材は増えている。日本で生活や仕事をする外国人が基礎的な日本語のコミュニケーション力を身につけるための教材『いろどり』は、ホームページで教材や音声を公開しており、タブレットなどで学べる。NHKで06年から放送された番組『エリンが挑戦!にほんごできます。』は動画教材として現在も無料で公開中。カラオケのように動画に合わせた字幕を音読して日本語を習得する教材など、楽しみながら学べる多様なコンテンツが生み出されている。
※撮影・提供元の記載がない動画・画像はすららネット提供
バナー写真:『すらら にほんご』を活用する夜間中学の静岡県立ふじのくに中学校

