ノーベル生理学・医学賞に阪大の坂口志文氏ら : 免疫反応抑える制御性T細胞発見の功績
科学 健康・医療 社会
2年連続で日本にノーベル賞受賞の朗報がもたらされた。免疫の暴走を抑える「制御性T細胞」を発見した坂口志文大阪大学特任教授ら3人が生理学・医学賞を授与される。がん治療への応用が期待されている。
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スウェーデンのカロリンスカ研究所は、2025年のノーベル生理学・医学賞を、過剰な免疫を抑制する「制御性T細胞」を発見した大阪大学特任教授の坂口志文氏ら3氏に授与すると発表した。
日本人のノーベル賞は2024年に平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)に続いて2年連続。日本出身の個人としては30人目(米国籍の南部陽一郎氏、中村修二氏、真鍋淑郎氏、英国籍のカズオ・イシグロ氏も含む)。生理学・医学賞は2018年に京都大の本庶佑特別教授の受賞以来、7年ぶり6人目となる。
2012年に同賞を受賞した京都大学iPS研究所の山中伸弥教授は、研究所のXで「坂口先生は、免疫学における常識を覆され、自己免疫疾患やがん、さらには臓器移植など、幅広く医学に大きく貢献されました。ご業績に心から敬意を表します」とのコメントを発表した。
| 受賞年 | 賞 | 氏名、業績 |
|---|---|---|
| 2025 | 生理学・医学賞 | 坂口志文(さかぐち・しもん) 大阪大学特任教授 免疫細胞の暴走を止めるブレーキ役となる「制御性T細胞」を発見。制御性T細胞の働きを抑制(ブレーキを解除)することで、がんの新たな治療法につながると期待される。 |
| 2024 | 平和賞 | 日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協) 被爆者の立場から、核兵器廃絶を求め国内外で活動。核兵器禁止条約の成立を求める署名活動を2016年に開始、条約の交渉会議や採択の場に被爆者を派遣し、条約実現の推進力となった。 |
| 2021 | 物理学賞 | 真鍋淑郎(まなべ・しゅくろう)=米国籍 米プリンストン大上席研究員 二酸化炭素濃度の上昇が地球温暖化に影響する予測モデルを発表 |
| 2019 | 化学賞 | 吉野彰(よしの・あきら) 旭化成名誉フェロー リチウムイオン電池の発明 |
| 2018 | 生理学・医学賞 | 本庶佑(ほんじょ・たすく) 京都大学特別教授 がんの免疫療法の開発 |
| 2017 | 文学賞 | カズオ・イシグロ = 英国籍 作家 感情に強く訴える小説群 |
| 2016 | 生理学・医学賞 | 大隅良典(おおすみ・よしのり) 東京工業大学栄誉教授 細胞内で不要なたんぱく質を分解、リサイクルする「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明 |
| 2015 | 物理学賞 | 梶田隆章(かじた・たかあき) 東京大学宇宙線研究所所長 業績:素粒子ニュートリノの振動を発見した功績 |
| 生理学・医学賞 | 大村智(おおむら・さとし) 北里大学特別栄誉教授 業績:寄生虫による感染症の治療薬開発に貢献 | |
| 2014 | 物理学賞 | 赤崎勇(あかさき・いさむ) 名城大学教授、名古屋大学名誉教授 業績:青色発光ダイオード(LED)の開発に貢献 |
| 天野浩(あまの・ひろし) 名古屋大学教授 業績:同上 | ||
| 中村修二(なかむら・しゅうじ)=米国籍 米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授 業績:同上 | ||
| 2012 | 生理学・医学賞 | 山中伸弥(やまなか・しんや) 京都大学iPS細胞研究所長・教授(受賞時) 業績:さまざまな組織の細胞になる能力がある「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」を開発 |
| 2010 | 化学賞 | 根岸英一 (ねぎし・えいいち) 米パデュー大学特別教授(受賞時) 業績:「有機合成におけるパラジウム触媒を用いたクロスカップリング」に成功 |
| 鈴木章 (すずき・あきら) 北海道大学名誉教授(受賞時) 業績:同上 | ||
| 2008 | 物理学賞 | 南部陽一郎 (なんぶ・よういちろう)=米国籍 米シカゴ大学名誉教授 業績:「自発的対称性の破れ」の発見 |
| 小林誠 (こばやし・まこと) 高エネルギー加速器研究機構名誉教授(受賞時) 業績:「CP対称性の破れ」を理論的に説明した「小林・益川理論」を提唱 | ||
| 益川敏英 (ますかわ・としひで) 京都大学名誉教授(受賞時) 業績:同上 | ||
| 化学賞 | 下村脩 (しもむら・おさむ) 米ボストン大学名誉教授(受賞時) 業績:「緑色蛍光タンパク質(GFP)」の発見・開発 | |
| 2002 | 化学賞 | 田中耕一 (たなか・こういち) 島津製作所フェロー(受賞時) 業績:生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発 |
| 物理学賞 | 小柴昌俊 (こしば・まさとし) 東京大学名誉教授(受賞時) 業績:岐阜県に建設された素粒子観測装置、カミオカンデで素粒子ニュートリノを世界で初めて観測 | |
| 2001 | 化学賞 | 野依良治 (のより・りょうじ) 名古屋大学理学部教授(受賞時) 業績:ルテニウム錯体触媒による不斉合成反応の研究 |
| 2000 | 化学賞 | 白川英樹 (しらかわ・ひでき) 筑波大学名誉教授(受賞時) 業績:電気を通すプラスチック、ポリアセチレンの発見 |
| 1994 | 文学賞 | 大江健三郎 (おおえ・けんざぶろう) 作家 業績:『個人的な体験』(1964)などの作品を通じ、現実と神話が密接に凝縮された想像の世界をつくりだし、現代における人間の様相を衝撃的に描いた |
| 1987 | 生理学・医学賞 | 利根川進 (とねがわ・すすむ) 米マサチューセッツ工科大学教授(受賞時) 業績:「抗体の多様性生成の遺伝的原理」の発見 |
| 1981 | 化学賞 | 福井謙一 (ふくい・けんいち) 京都大学工学部教授(受賞時) 業績:化学反応と分子の電子状態に関する「フロンティア電子理論」を樹立 |
| 1974 | 平和賞 | 佐藤栄作 (さとう・えいさく) 元首相 業績:非核三原則を提唱するなど太平洋地域の平和に貢献 |
| 1973 | 物理学賞 | 江崎玲於奈(えさき・れおな) 米IBMワトソン研究所主任研究員(受賞時) 業績:半導体におけるトンネル現象の実験的発見 |
| 1968 | 文学賞 | 川端康成 (かわばた・やすなり) 作家 業績:代表作『伊豆の踊子』(1927)や『雪国』(1935-1937)を通じ、微細な感受性をもって日本人の心の神髄を表現した |
| 1965 | 物理学賞 | 朝永振一郎 (ともなが・しんいちろう) 東京教育大学教授(受賞時) 業績:水素原子のスペクトルの観測データと予測値のずれの解決に超多時間理論が有効であると考え、これを発展させた「繰り込み理論」を完成 |
| 1949 | 物理学賞 | 湯川秀樹 (ゆかわ・ひでき) 京都大学理学部教授(受賞時) 業績:原子核の陽子と中性子を結びつける粒子、中間子の実在を理論的に予言した |
バナー写真 : 2025年の生理学・医学賞を受賞した3氏。右が坂口特任教授(ロイター)