脚本はその後、何度も書き直しを経て形を変え、最終的に台湾を舞台とするノワール調(暗いトーンの犯罪映画)のサスペンスに行き着いた。それがこの『パラダイス・ネクスト』だ。

雑然とした台北の街でひっそりと暮らす無口な日本人、島(豊川悦司)。裏社会で生きてきた男で、護衛をしていたシンルーという女性の不審死をきっかけに日本を逃れてきた。その島の前に突然、牧野(妻夫木聡)という軽薄なうさんくさい若者が現れ、事件の真相を知っているとほのめかす。牧野の命がある組織に狙われていることを知った島は、東海岸の美しい田園地帯、花蓮(ホアーレン)へと牧野を連れ出して潜伏するのだが、そこで死んだシンルーに瓜二つの女性と出会う…。

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楽園の向こう

「脚本はうまくないので、プロデューサーに叱られながら手を入れていくんですが、ここは絶対にこうあってほしいということがいくつかあるんです。それは物語を作るという本来のスタンスからするとダメなことなんでしょうけど、僕はその作り方を自分で突き詰めていかないと自分らしいものができないと思っています。つまり、物語全体よりも、このときのこの人の表情を撮りたい、このときの色を撮りたい、そういう断片的なことのほうが先にある。物語をうまく語るというのが得意ではないし、僕のスタイルではないんですね。イメージや色の連鎖によって、空気感や情感を伝えたい。最初からそうやってシーンの構成を考えました。映画の『正解』をあえて逸脱して、感覚的なものの連鎖で時間が過ぎていく。でも単なる抽象ではなく、人物がいて、現実的な出来事が起きて、そういう映画的な背景はちゃんとある。そこをある程度は着地させつつ、どこまでフワッと地上から浮き上がらせるのか、そういうバランスが今回、僕の中のテーマでした」

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映画『パラダイス・ネクスト』の妻夫木聡 © 2019 JOINT PICTURES CO.,LTD. AND SHIMENSOKA CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED
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監督が狙ったこの映画独特の浮遊感は、全編台湾ロケによる「異境」の空気を通じても引き出されているに違いない。現場のスタッフも撮影の池田直矢を除いて全員が台湾人だったという。

「僕の映画音楽の出発点が台湾映画だったので、僕にとって映画の故郷は台湾なんです。それと台湾の色や風土に魅了されたので、やはりここで映画を撮ってみたいなと思っていました。花蓮という場所は高速道路も新幹線も通ってなくて、ローカル電車か海沿いの一本道でしか行けないところなんです。だから自然が美しい反面、天候の影響で撮影には不安な要素が多い。向こうの制作チームは嫌がったんですよね。でも僕は気に入ったので、そこを押し切った。台湾のスタッフは優秀でした。特に撮影部の技術力はすごかったですね。僕が複雑なことを要求しても技術的にノーと言われることは1回もなかった。ただ演出部がね…。あるとき僕が全員集めてダメ出ししたら、翌日には1人もいなくなってしまって(笑)。全体の3分の2は助監督もADもなしで撮って、通訳さんが代わりにやってくれたりもしたんですよ!」

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台湾の田舎での、時に過酷な撮影を通じて、これまでの日本映画にはなかったような景色を見せる『パラダイス・ネクスト』。タイトルにもある「楽園」に、半野監督はどのようなイメージを込めたのだろうか。

「人生で自分が幸せだと感じる瞬間って、誰もがその周縁をくるくる回っているだけのような気がするんです。そこへ向かっていると思ったら、実は通り過ぎていたり、遠ざかっていたりする。後にならないと、そんな瞬間があったことが分からないんじゃないかって。人生には正しいこと、正しくないこといろいろあって、人はさまざまな矛盾を抱えて生きていますが、この映画を観てくれる人には、ラストで彼らの人生に自由を感じてもらえたらな、とだけ思ったんですよね。僕たちが現代で一番感じることの難しい自由、自分のすべてを失う瞬間に感じる自由、逃れられないものから逃れるときに感じる自由。そういう瞬間とか空気を、説明的にではなく、ふっと感じてもらえたらいいなと思っています」

インタビュー撮影=花井 智子
聞き手・文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)

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作品情報

  • 出演:妻夫木 聡、豊川 悦司、ニッキー・シエ、カイザー・チュアン、マイケル・ホァン、大鷹 明良
  • 監督・脚本・音楽:半野 喜弘
  • 音楽:坂本 龍一
  • 配給:ハーク
  • 製作年:2019年
  • 製作国:日本・台湾
  • 公式サイト:hark3.com/paradisenext/
  • 文化庁文化芸術振興費補助金(国際共同製作映画)
  • 7月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

予告編