映画監督になると決意してから
少年時代から映画をこよなく愛していた近浦だが、「映画監督になる」という決意に変わったのは就職活動に入る時期だったという。大学では経済学を専攻していたのだが、独学で映画の手法を学んでいった。
「尊敬する映画監督が手掛けた作品を観ては、その作品を絵コンテに描き起こす作業を続けました。1シーンごとに番号を振って、そこで何が起きたか大学ノートに1行ずつ書き出しては、どんな風に場面が遷移して、どんな風に登場人物の感情を構築していくのかなど、映画をひたすら観察しました」
もちろん、こうして理論を頭に叩き込み、センスを磨くだけで映画監督が務まるわけではない。撮影現場を動かしていくには、経営者として会社を動かしてきた経験も十分に役立っているはずだ。
「チームのメンバーに同じ方向を向いてもらうためには、まずはリーダーがビジョンを持ち、それを実現するための粘り強い情熱を彼らに見せることが一番重要だと思います。そう考えると、映画監督の仕事というのは、会社でチームを率いて仕事をしていくことと、根本的には似ていると思いました」
今回の長編デビュー作でプロデューサーも兼務した近浦は、主要なスタッフを自分より年上のベテラン勢で固めた。撮影監督に是枝裕和監督作品の常連・山崎裕、美術監督に周防正行や滝田洋二郎の監督作品で知られる部谷京子など、キャリア豊富な腕利きたちを口説き落としていった。
「監督としてチームを率いることに関しては、自分が理想としていた形に近づけた感じがあった。仮に20代前半で今回の映画を撮るチャンスに恵まれたとしても、当時の僕ではうまく撮れなかったかもしれません。一方、プロデューサーとして出来上がった作品を観客に届けるということについては……、それこそ僕が考えていたほど甘くはなかったです。期待と現実のギャップは大きかったです。配給して観客に届ける大変さは身にしみました。それが今回の一番大きな収穫です」
中国での撮影もあった本作には、中国人映画監督のフー・ウェイもプロデューサーに名を連ねている。6年前、初めて海外の映画祭で『Empty House』が上映された台湾・高雄で出会った盟友の存在が、この長編の実現にも大きな役割を果たした。
「正直に言うと、僕とフー・ウェイの2人だけで始めた作品でしたので、『誰か相手にしてくれるのだろうか』と思っていたところもありました。でも実際は、制作から公開に至るまでの過程でたくさんの出会いがあり、多大なサポートをしていただきました。もっと心を開いて、いろいろな人と一緒に作っていくという気持ちになれたら、よりよいものができるんだと考えるようになりました。次の作品については、納得する脚本がそろそろ書き上がりそうな段階です。今回経験したことが、また違う形で活かせるんじゃないかと思っています」
インタビュー撮影=花井 智子
取材・文=渡邊 玲子
作品情報
- 監督・脚本・編集:近浦 啓
- 出演:ルー・ユーライ 藤 竜也 赤坂 沙世、松本 紀保ほか
- 製作:クレイテプス Mystigri Pictures
- 制作プロダクション:クレイテプス
- 配給:クロックワークス
- 製作国:日本=中国
- 製作年=2018年
- 上映時間:116分
- 公式サイト:http://complicity.movie
- 2020年1月17日 (金)より新宿武蔵野館にてロードショー




