夢に挑戦する生き方

ここで、HIKARI監督本人の生い立ちをたどってみよう。小中学校で学級委員、生徒会長を務め、大阪の有名な合唱団に所属して、常に人前に立つ活発な少女だった。

「ちょっと目立つといじめられるんですよね。そんなときに先生から聞かされたのは、『出る杭は打たれる』という言葉。なんで? 私が悪いの? 子ども心にも釈然としませんでした。それもあって小学4年生頃から海外に出たいと思っていたんです」

合唱団では来日した海外アーティストと舞台で接する機会もあり、彼らのような人々の世界に入っていきたいと自然に思うようになった。18歳になる直前に高校の交換留学で渡米。米国で勉強する意志を固めて現地の大学に入り、舞台芸術を専攻した。卒業後はロサンゼルスに移住、アルバイトをしながら、女優やダンサーとして映画やミュージックビデオ、コマーシャルに出演した。スチールカメラマンとしてミュージシャンを撮影し、生計を立てていた時期もある。常にショービジネスと関わりを持ちながら、身軽に転身を重ねてきたようだ。

「USC に入ったのは、30歳になった頃、次は監督をやってみようかな、くらいな感じでしたね。映画作りは好きだし、作品を通して社会に意見を発信したいという使命感もありますが、自分で違うなと感じたら、いつ辞めてもいいなとは思うんです。15年後、全然違うことに興味が出てくる可能性だってありますしね」

以前から、発展途上国などで教育を受けられない子どもたちに学校を作りたいという夢があったという。

「映画で成功したら、いろいろな人たちと出会って、そういう活動を実現する可能性が近付くかもしれないですよね。『37セカンズ』はびっくりするくらいハリウッドのスタジオ関係者に観てもらえたんです。これまでに20件くらいオファーをいただいて、現在5つほどプロジェクトを進めさせてもらっています。某大手スタジオから莫大な製作費の巨大プロジェクトのオファーもあったんですが、脚本を読んで、最終的にはおことわりました。これは、いま私がする作品じゃないと感じたので」

ユマを支える介護福祉士役の大東駿介 ©37 Seconds filmpartners
ユマを支える介護福祉士役の大東駿介 ©37 Seconds filmpartners

長編を1本作って実力を示したとはいえ、それによって一人の映画監督を取り巻く環境はこうもガラリと変わってしまうものなのか。米国で資金集めに苦労したのは、わずか3年前のことなのだ。単なるシンデレラ・ストーリーではない。大きな目標を次々と実現していく彼女から発せられた「何もかもがステップ」という言葉には、とてつもない重みがある。

「これを1本作ったからこそ今がある。それを作らないと次にいけない。そう実感します。今後は、やったことがないことばかりでどうなるのかな、とは思うけど、恐怖はないですね。興味がある題材だと、すぐやりますと言ってしまう性格なので、プロジェクトが大きくなればなるほど、ちゃんと自分に時間を費やして準備しておくのが大事かな。毎回学ぶことばかりですけど、分からないことは教えてもらいながら、どんどん大きな作品に挑戦したいですね」

生まれ育った日本に窮屈さを感じ、自由に羽ばたいて世界に活躍の場を見出したHIKARI。長く海外に暮らしながら、その目に日本社会はどう映っているのだろうか。

「日本の人は世界で何が起こっているか、知らないことが多すぎるなという印象を受けます。何か重大なことが起こっても、エンタメやお笑いでかき消されてしまう。大事なところに関心が向かないように、全部が巧妙に構成されてしまっているなと。ガチガチに縛られているわけではないけれども、日本人の優しさとか声に出さないところを使って、うまく誘導されている気がします。この先どうなるんだろうなという心配は、海外にいる人が一番感じていると思うんですよ。だからこの映画をたくさんの人に観てほしい。誰にでもいろいろなことができる、挑戦できると思ってもらえたらうれしいですね」

インタビュー撮影:花井 智子
取材・文:松本 卓也(ニッポンドットコム)

©37 Seconds filmpartners
©37 Seconds filmpartners

作品情報

  • 監督・脚本:HIKARI
  • プロデューサー:山口 晋、HIKARI
  • 出演:佳山明、神野 三鈴、大東 駿介、渡辺 真起子、熊篠 慶彦、萩原 みのり、宇野 祥平、芋生 悠、渋川 清彦、奥野 瑛太、石橋 静河、尾美 としのり/板谷 由夏  
  • 撮影:スティーヴン・ブレイハット、江崎 朋生
  • 編集:トーマス・A・クルーガー
  • 挿入歌:「N.E.O.」CHAI <Sony Music Entertainment (Japan) Inc.>
  • 製作国:日本
  • 製作年:2019年
  • 上映時間:115分
  • 配給:エレファントハウス、ラビットハウス
  • 公式サイト:http://37seconds.jp/
  • 2020年2月7日、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

予告編