バードラッシュの中で躍動

戦前の日本の領土拡張について最も詳細な研究といえる『アホウドリと「帝国」日本の拡大』(明石書店)の著書がある下関市立大学名誉教授の平岡昭利さんは、生前の松丸さんと交流があり、同書では「故松丸耕作氏の博学な知識に大いに刺激を受けた」と書いている。平岡さんは「西澤はあの時代に躍動した山師的な冒険家だったが、本人の証言などが残っていないので松丸さんも伝記をまとめるうえで苦労されていた」と振り返る。

平岡さんは著書で、当時、アホウドリの羽毛やフンが積もってできたリン鉱石を求めて南の島々に向かった探検家たちの動きを、米国のゴールドラッシュに例えて「バードラッシュ」と呼んだ。そのバードラッシュの奔流のなかでひときわ明るい光芒(こうぼう)を放った西澤吉治の人生のピークを飾った東沙諸島が、いま国際紛争の焦点に急浮上していると松丸さんが知ったら、どんな風に感じただろうか。伝記を完成させておきたかった、と思うかもしれない。

残された膨大な資料には、ことごとく赤い線が引かれ、虫メガネでないと判読できないほど小さな字で、たくさんコメントや疑問が書き込まれている。執念をもって取り組んでいたのだろう。同じ書き手として、彼の無念を思うとやるせない。貴重な資料のなかで私が引き継げるものはごく一部でしかないが、台湾に関する資料のコピーを雅恵さんご了解のうえで取らせていただいた。

細かい字が書き込まれた資料のコピー
細かい字が書き込まれた資料のコピー

西澤吉治の写真は、松丸雅恵さん提供。他は筆者撮影

バナー写真=西澤吉次(左)と孫の松丸耕作さん(右)