焦点は世界経済への対応:ドイツとの調整が鍵

実は、現在日本はG7サミット参加国の中で、とりわけ強力なリーダーシップを発揮し得る立場にある。米国は大統領選挙のさなかであり、オバマ大統領の任期も1年を切っている。オバマ大統領は最後のサミット参加となるため、公約をつくったり、議論をけん引したりすることは難しい。また英国は、6月23日に控えているEU加盟存続を問う国民投票へ向けての国民の説得と、パナマ文書を通じたキャメロン首相に対する信頼の失墜に対処せねばならず、外交に専念できない状況にある。

また、フランスは2015年に2度起こった苛烈なパリでのテロの結果として、対テロ政策とシリアからの難民対策が不可避的に主要な政治課題となってしまっている。イタリアとカナダでは新しく若い首相が就任しており、サミット参加が5回目となる安倍首相よりも外交経験が不足している。だとすれば、唯一安倍首相と匹敵する影響力をG7のなかで行使し得るのは、サミット参加11回目となるドイツのメルケル首相である。

サミット開催までのこれからの期間に、したがって安倍首相にとって最も重要となるのが、このメルケル首相との立場の調整である。今回のサミットでは、最も重要な議題が世界経済となる見通しである。財政規律の維持に拘泥するドイツに対して、はたして安倍首相が積極的な財政出動の必要性をG7として合意に導くことができるかどうかが鍵となっている。

G7で合意ができれば今後の世界経済の大きな流れをつくると同時に、日本国内における消費税増税の延期や、今後のアベノミクスの行方にも大きな影響を及ぼすであろう。その意味でも、今回の議長国である日本のリーダーシップはとても重要となっている。

そのような中で安倍首相は4月25日、斎木昭隆外務次官と杉山晋輔、長嶺安政両外務審議官に対して、「日本が指導力を発揮できるようしっかり準備を進めて欲しい」と述べている。その安倍首相自ら、5月の大型連休中にはサミット構成国である英国、フランス、イタリア、そしてドイツという欧州4カ国を訪問する予定となっている。ドイツ訪問時に安倍首相がメルケル首相に対して、どこまで日本が促進しようとする財政出動を含めた総合的な経済対策の必要性を理解してもらえるか。これが大きな分水嶺になるであろう。

サミットで実効的な合意を:試される安倍首相の手腕

しかしそれだけではない。日米両国とドイツとの間では、東シナ海や南シナ海での中国の海洋活動について大きく異なる認識が見られる。欧州諸国では一般的に、中国経済の先行きや中国の東アジアでの軍事行動に対して楽観論が色濃く見られる。他方で日本や米国は、南シナ海での中国の軍事行動をけん制するためにも、G7サミットにおいて共通の立場で海洋安全保障を守るための強い声明を出す必要を感じている。

単に日本が議長国であるという意味だけではなく、日本の推し進める積極的な財政出動を伴う経済政策や、南シナ海と東シナ海での「自由で開かれ、安定した海」の確保というこの2つの領域で、日本は国際社会におけるリーダーシップを発揮しようとしている。長期政権となりつつある安倍政権において、安倍首相はかつて中曽根康弘首相や小泉純一郎首相がそうであったように、他のG7諸国の首脳との信頼関係や、打ち解けた関係を基礎として、外交アジェンダを設定して、議論をまとめることが可能となる立場にあるのだ。

とはいえ、各国が内向きとなり、国際秩序が動揺する世界において、実効的な合意を確立することは決して容易なことではない。その意味でも、国際秩序の将来にとっても、世界経済の行方を占う上でも、さらには安倍政権の評価が確立していく上でも、きわめて重要な分岐点となることは間違いないであろう。

(2016年4月27日 記)

バナー写真:原爆死没者慰霊碑に献花し岸田文雄外相(左)と言葉を交わす米国のケリー国務長官=2016年4月11日、広島市(時事)

(*1) ^ 岸田文雄「動き始めた東アジア近隣外交 ―日本外交の一年を展望する」『外交』第35号(2016年)12-13ページ