大事なのは“取りにいく”姿勢
——やはり日本文化には、海外の文物を旺盛に受け入れるエネルギーがあったのでしょう。
「また、日本で明治維新が行われ、新たな統一的な国家体制の第一歩が踏み出された1868年は、アメリカで南北戦争が終わった3年後に当たります。ヨーロッパではイタリア王国が成立し、ドイツでもプロシアを中心とした王国ができていく。世界規模で国や地域が再編する中で、日本も明治維新を迎えて新たな文化を創り、新しい口語文体も生まれた。世界史的な規模から、江戸時代の文化・文政期から明治の文化を見直すこともこれからの研究課題です」
——一方で、この時代を知るゆえに感じる現代の日本文化の課題はありますか。
「江戸時代には、強固な身分社会がありました。その中で、庶民の<俗の文化>は<雅の文化>を取り込んで発展していった。明治時代には、欧米の文物を漢語の知識を通して吸収した。いずれにせよ、日本文化には内外のものを積極的に<取りにいく>姿勢がありました。最近、そのパワーが少し弱まっているかもしれませんね。最近の若い世代の新刊の小説を読んでいると、学校が舞台だったり、身の周りの友人のことを描いたり題材が狭い。これからの日本人が、自分たちの文化の奥行きをどのように広げていくのか気になります」
——現在、日本の漫画やアニメなどが「クール・ジャパン」と受け止められ、外国でも人気を集めています。
「僕自身、漫画も好きですし、しっかりした作品も多いです。ただ日本にはアニメや漫画だけでなく、それこそ江戸時代の文化を含めてさまざまな絵画や物語があり、内田百間や谷崎潤一郎の作品をはじめ優れた近代小説があることももっと広めていきたいですね」
桜は本当に美しい
——3月11日には、多数の犠牲者を出した東日本大震災が起きました。震災をきっかけに最近、何を感じているか教えてください。
「日本を代表する花に桜がありますね。和歌にも数多く詠まれてきた美しい花ですけど、平安時代以降、日本には<墨染めの桜>という言葉があります。人間の死を悼んで桜が墨色に染まったという伝説があるんですね。それで今年は桜を見るのがつらいなと思っていたけれど、ある日、東京の新宿御苑で桜を見たとき、これほど美しい花だったかと改めて驚きました。東北の方からも、桜の花に勇気づけられたという声をよく聞きました」
——<花の色はうつりにけりないたづらにわが身世にふるながめせしまに>。日本の有名な和歌です。日本人はさまざまな感情を、桜に託してきました。
「日本は四季の移り変わりが美しい国ですが、同時に台風や地震、津波など自然の災害が多い。その中で『もののあはれ』といった独自の無常観を発展させてきたことを改めて感じました。一方で、江戸時代の言葉に『こぼれ幸い』という語があります。自分たちのいる世界が永遠ではないのを知っているからこそ、偶然の出会いやめぐりめぐって訪れた小さな幸せを大切にする。そんな心優しい感性が、この国の人にはありました」
「こぼれ幸い」の味わい
——こぼれ落ちてきたようなささやかな幸せを味わうということですね。
「今年5月、地震で被害を受けた東北地方の避難所に行く機会がありました。電気がまだ復旧しておらず、ガスコンロで炊事の準備をする状態でした。その際、ある若い女性が2時間くらいかけて山でバケツ一杯に山菜を採ってきたんです。一緒に暮らす避難所の人たちは誰もがすごく喜んで、調理をして食べていた。震災で大変な状況にある中で彼らは、自然から恵まれた山菜とそれを摘んだ女性の労力にきちんと感謝していた。つまり、『こぼれ幸い』を大切に味わう感情を持っているんですね。GNPの世界ランクで日本は中国に追い抜かれて3位に転落し、震災の被害による経済力の低下を危惧する声が出ていますが、一方で震災は、現代の日本のライフスタイルのあり方を考え直し、古くから持ってきた自然とのつき合いを大切にする価値観を見直すきっかけになるとも思います。その中で、新たな文化表現も生まれてくるでしょう」
——外国の方がその日本文化を感じるのに、最も良い方法は何だと思いますか。
「やはり実際に日本を訪ねてみることですね。現在、円高で外国人にとってはお金がかかると思われがちですが、飛行機の格安チケットで日米を600ドル程度で往復できることもありますし、東京には2000~2500円で宿泊できるような場所もあります。実は今、すごく訪ねやすいんです。東京でも京都でもいい。好きな町を何日か歩いてみたらいい。歌手のレディー・ガガさんは、東京のある駅の立ち食いそばが好物だそうです。そんな風に自分の好きな日本を見つけていけばいいと思います」
——本日は多方面にわたるお話をありがとうございます。ところでキャンベルさんは日本の生活になじんで、久しぶりに故国へ帰ると、変わったなんて言われることはありますか。
「それが、たまにあるんですよね。以前、アメリカで妹と食事をしていたとき、レストランで思わずパスタの皿を無意識のうちに持ち上げてしまっていて……」
——皿を持って食事するのは、日本の習慣ですか。
「アメリカ人は、まずやりませんね」
——結構、便利なんだけどな(笑)。
「あれを妹にとがめられたときは、自分でも本当に参りました(笑)」
撮影=大久保 惠造

