作品の保存と新しい日本画の創造
展覧会にまつわる多角的なプロデュース力を発揮している山崎さんだが、収蔵作品を守るための地道な努力も重要な仕事だ。前述のように日本画は岩絵の具や紙といった材料を使っているために傷みやすい。「作品の保存と公開という、相反する使命を両立させることはとても難しい課題ですが、展示室内の最適な環境づくりや、傷んだ作品の修復など、常に前向きに取り組むようにしています」
また、若手日本画家の発掘・育成にも力を入れる。1971年から97年まで実施していた「山種美術館賞」を2016年に再開させ、19年に2回目を実施した「Seed 山種美術館 日本画アワード」は、45歳以下ならだれでも応募できる公募展だ。「全てを岩絵の具で描くといった伝統的な手法にこだわらず、部分的にアクリル絵の具や油彩も使用できるなど、画材の条件を広げました。応募作品にはいろいろな表現があって素晴らしかった。3年に1度の公募展を通じて、若手をもっと応援していきたいですね」
応募作品を見ると、現代アートのような趣の作品もある。「『日本画』と『洋画』の境界線が、少なくとも表面的にははっきりと捉えにくい作品があることは事実です。日本画の伝統を土台に現代に即した表現を模索した力作が多く出品されました。美術の歴史を通してみても、伝統は更新され、その時代の新しい表現が生み出されています。伝統が失われているというより、むしろ新しい日本画が創造されているといえます」
海外の人にも見てほしい
日本画の未来を担う画家たちを応援する一方で、山種美術館の日本画のコレクションをもっと海外の人たちに見てほしいという強い思いがある。
「館蔵品を通じて、岩絵の具、紙、絹など天然の素材の美しさを生かした日本画の表現を海外の人たちに見てほしい。日本画の魅力は印刷物ではなかなか伝わりません。岩絵の具などの鉱物を膠(にかわ)で紙や絹に定着させる手法なので、粒子が荒く、キラキラ、ザラっとしている。この独特な質感をぜひじかに見て感じていただきたい」
これまでも、外国人に分かりやすい切り口の展覧会を企画してきた。例えば2014年「Kawaii 日本美術 ―若冲・栖鳳・松園から熊谷守一まで―」展では、当時海外にも広がりをみせた日本発の「Kawaii文化」に着目し、「Kawaii」というキーワードを通して室町時代から現代までのさまざまな「かわいい」作品を紹介した。現在開催中の「東山魁夷の青・奥田元宋の赤―色で読み解く日本画―」(~12月22日)では、日本画独特の美しい色を生み出す絵の具の魅力に力点を置き、天然岩絵の具の原石も展示して、画材への興味も喚起する工夫をしている。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、海外からの観光客に向けた情報発信に一層力を入れるつもりだ。
「上野、浅草などのメジャーな観光地ではないので、現時点では1日5人ぐらいしか外国の方の来館がありません。せっかく東京に来て、誰もが行くところだけを観光するのではなく、海外であまり見る機会のない明治時代以降の日本画に触れる機会をぜひつくってほしい」
祖父、父に続く3代目の館長として、日本画の魅力をより広く発信し、新たな世代につなげていくための手腕が試されている。
バナー:山種美術館(東京・広尾)のエントランスロビーで
バナー写真・インタビュー撮影=三輪 憲亮


