日中韓米:国際政治は大きな分岐点に

川島  大きな国際政治の分岐点に、今、来つつあるということはたぶんみんな分かっていて、特に中国とアメリカの関係が今後どうなるかということが一番大きな焦点になる。中国は一帯一路という構想を出して、周辺の国と、あるいはユーラシア全体を自分のやりやすい空間にしていこうとしている。おそらく中国は、東シナ海、南シナ海、太平洋というのは厄介な空間で、日米と直接ぶつかることは、かなりコストがかかることを今、学びつつある。だからこそ、「西進」をイメージ化したのだろう。だが、これは「東」を無視することを意味しない。

そういう中でアメリカも安全保障体制を組み直しながら、日本に対してもさまざまな要求をしてくる。韓国はまさに米中の中間にいて、ある種の選択を迫られている。相当うまくバランスを取っていかないと無理だという問題に、韓国は直面していると思う。

中国の場合は、歴史認識問題というのは共産党の正統性の根幹に関わるが、白石先生がおっしゃるように、あまり歴史カードを使うことも危険。反日デモは、やっても必ずしも取り締まりを受けないので、そこでまたいろいろな問題も噴出してくる。だから国際宣伝とかさまざまな面で日本に対して厳しいことをやり続けると思うが、国内ではやり過ぎないようにする。この両面のかじ取りを中国はやってきていて、9月3日もまさにそれが現れたかなという印象だ。

でも今回、韓国の朴槿惠大統領は8月15日に、安倍談話を踏まえた演説を行っている。談話が出た後の14日の夜から一生懸命に頑張って、加筆修正したようだ。そういう意味ではかなり努力をした。このようにして日中韓3国がともに歴史をマネージしてみせたのが8月から9月ではなかったか。まだこれからさまざまなことがあるかもしれないが、対立のエスカレーションを一定程度防ぐことを世界に見せることができたという意味では、一つの例としてよかった。

歴史を政治の道具として悪用しないために

川島  談話の中の「謝罪を子々孫々まで受け継ぐかどうか」という議論だが、これも国内で議論が進むといいと思う。ドイツなどでは、戦争犯罪を分類している。ヤスパースの議論にもあるが、そもそも戦後生まれは戦争の時に生きていないわけだから、戦時下の事象に対して刑事的な罪があるはずはないという。でも戦後に生きているわれわれは、ある種の和解に対しては責任があるとか、罪を弁別して考えている。

日本では、そういう議論はあまりない。東アジアの国々も「日本民族全体、そして戦前も現在も同じ民族」として責任を追及する面がある。しかし世代が進むにつれ、べつにドイツに全て学ぶ必要はないが、日本や東アジアでも「何がそもそも悪いのか」、「何に対して責任があるのか」ということについての議論がもう少し哲学的に進むと、日本でも中国でも受け入れられるものができるのではないか。

そういう意味で今回の談話は、若干ドイツを参考したかなという思う箇所があり、興味深い。「日本の和解に協力してくれた個人や国家に感謝する」というのは、メルケル・ドイツ首相の言葉に近い。そういうところが入ったのは面白いかなと思う。

細谷  ドイツを参考にしたというのは、おっしゃるとおりだと思う。3月にメルケル首相が来て、あのような演説をしたことが(*2)大きかったと思う。メルケル首相が非常に強調したのは、フランスなどの周辺国が和解の精神で手を差し伸べてくれたということ。あれは明確に、ギリシャをはじめとして歴史を修正しようとする国に対するけん制だと思う。

つまりはヨーロッパの中でも誠実にドイツと和解を求める国と、今のギリシャのように現在の問題を解決するために歴史を利用、あるいは悪用し、歴史をゆがめてドイツに対して優位に立とうとする国に分かれている。その中で、相当強い言葉でメルケル首相はギリシャをけん制したと思う。

ドイツや日本が真摯に歴史に向き合うということは必要だが、「現代の政治問題を解決するために歴史を道具として悪用するということは避けるべきだ」ということの理解というものも、これからの国際社会に必要ではないか。

(本稿は、2015年9月9日に東京都内で行った鼎談の内容をニッポンドットコム編集部が要約したものです。)

バナー写真:21世紀構想懇談会の西室泰三座長(中央、日本郵政社長)から戦後70年談話に関する有識者会議の報告書を受け取る安倍晋三首相(右)。左は北岡伸一座長代理(国際大学長)=2015年8月6日、東京・首相官邸(時事)

(*1) ^ 中国の江沢民主席は訪日中、日本の歴史教育を批判する発言を行い、天皇と小渕恵三首相に過去の歴史に基づいた謝罪を要求した。

(*2) ^ メルケル首相は訪日中の講演で、隣国フランスの寛容さが独仏の和解を進め、欧州統合という平和の土台を築くことができたと強調。東アジアの歴史認識をめぐる問題に直接は触れなかったが、和解に向けて双方が“謝罪と寛容”を示す努力が必要であると示唆した。