「あきらめ」が大切な海外ビジネス
台湾はこの点、個人が自分の意見をはっきりと述べる土壌がある上、SNSが発達しているため、トレンドからカルチャーへの移行においては有利な側面もある。先日『BRUTUS』の台湾特集の表紙が台湾のSNS上で炎上した記憶は新しい。当初は、表紙となった台南の国華街の昔ながらの風景が台湾の後進性を強調されているようで屈辱的だ、いや、日常のありのままの姿をむしろ誇りに思うべきではないか、という賛否両論の議論が白熱し拡散していった。しかし、程なく自分のお気に入りの風景写真をコラージュし、自分だけの『BRUTUS』の表紙を作成できるアプリが出回ると、今度は最初の論点は完全に置き忘れられ、それぞれが「My表紙」を作るのに熱中するという方向に事態は「進化」していった。このスピードとセンスは台湾独自のもので、台湾の文化創造の可能性を小路はここに見いだす。そして、Fujin Treeの役割をこう定義付ける。
「セレクトショップの商品でも、その良しあしではなく、それを生活の中でどう使うか、生活文化を提案することが私たちの役割です。私はテーマを変えながら、外国人だからこそ見えるものを提示し、台湾人が自分たちで気付いていない台湾の特徴や長所を再認識、再発見してもらえたらと考えています」
台湾にはこれからの日本が直面する問題のヒントがあふれていると小路は言う。少子高齢化と介護、LGBT(性的少数者)への取り組み、民主主義の在り方、仕事とプライベートのバランス、これらは台湾がむしろ日本より先行している。台湾のサイズは日本が今後のモデルを考える上でも完璧だとも言う。そんな小路に、大切にしている言葉、ビジネスにおける信条を最後に聞いた。
「海外でビジネスをする上では『諦める』ことが大切だと思います。私は台湾人ではないので、台湾人の気持ちを100%理解することはできません。私にとってはささいなことが彼らにはとても大切だったり、その反対もたくさんあったりします。それを分かろうとしたり、分からせようとしたりするのではなく、分からなくても仕方ないことと捉えています。もちろん分かり合えたらすてきなことですが……。その上で台湾と日本との『場』を作るのが自分の仕事であり、信条を一言で言えば、『Agree to disagree』ということでしょうか」
自分の色を消し、裏方に徹する姿勢を見せる小路。しかしその反面、深い洞察に裏打ちされた独自の哲学を繰り広げる異能の経営者は、これからも台湾の人々の「懐日」意識をくすぐり続け、トレンドの新芽をカルチャーの大木へと育む職人として、その存在感を放ち続けることだろう。小路の次の一手は何か。これからの楽しみは尽きない。
バナー写真撮影:亦翔
