良縁に恵まれた台湾での映画製作

年明けに台湾・新北市の蕭錦文(しょう きんぶん)さんに会いに行った。蕭さんは、私が初めて監督した映画『台湾人生』(2009年)の登場人物の一人で、今年4月で92歳。台湾が日本統治下にあった時代に青少年期を過ごした5人に取材したが、今も健在なのは蕭さん一人となった。初めて会ったのは07年。映画完成のめども立たないまま台湾取材を続ける中、娘を心配する両親を誘った台湾旅行でのこと。総統府の見学コースを案内してくれたのが蕭さんだった。この偶然の出会いをきっかけに話を聞かせてもらうようになった。

蕭錦文さん、ボランティアガイドをしていた台北二二八紀念館にて、2008年(撮影:酒井 充子)

蕭さんは第二次世界大戦でインパール作戦に従軍した元日本兵で、戦後、27歳のときに一つ年下の弟を白色テロで亡くしている。私は日本人として知っておかねばならないことの多くを、台湾のおじいちゃん、おばあちゃんたちに教えてもらってきたが、蕭さんの人生には、戦前の日本がしてきたこと、戦後の日本がしてこなかったことが凝縮されている。

今年1月、拙著『台湾人生』が文庫化された。蕭さんのところへ行ったのはその報告も兼ねてのことだった。映画公開から9年。単行本刊行から8年。東日本大震災の際、多額の義援金が寄せられたことを経て、以前よりずっと台湾が近くなった今だからこそ、読んでいただきたいとの思いがある。私自身はこれまでに台湾を舞台にしたドキュメンタリー映画を4本作ってきたが、さまざまな縁に恵まれてここまできた。その歩みを振り返りたい。