環境保全と経営の多角化に寄与するアグロフォレストリー

台湾で森に藍を植える試みの背景にあるのが、アグロフォレストリーである。林業では、樹木を材木として販売可能なまでに育て、収入を得るというサイクルが長い。そこで林地を活用して副業的に別の農林産物を販売し、林業家の経済を安定化させようというのだ。台湾で林業が行われている森林は約29万ヘクタールで、台湾の全森林面積の13%を占める。台湾では、1991年から天然木の伐採を禁じる政策が取られる一方、高齢化による担い手不足で林地の荒廃が進んできた。こうした状況を改善する手法としてアグロフォレストリーに関心が寄せられるようになった。傅さんは、森で藍の栽培に取り組む意義として土壌や水資源の保全を挙げ、さらに「農家に新しい副業を作ることができる」と説明する。林務局では2019年、藍の苗3万本を農家に配布し、アグロフォレストリーの普及を図る考えだ。

青陽農園の森に植えられている藍、2018年9月14日(筆者撮影)

台湾行政院農業委員会林務局が2008から14年に実施した第4次森林資源調査の報告書は「混農林業(アグロフォレストリー)は国際的にも重視され、環境保全と農家経営を両立させるものと考えられている」と指摘し、「農業生産を多様化させて生産性を高め、さらに環境保全につながる持続可能な農業経営である」としている。日本の環境省も「地域住民の生計手段となる農作物の栽培とともに、植林される樹木として在来種を用いることが可能であることから、地域社会と生物多様性の両方に配慮した森林経営となり得る活動」として、アグロフォレストリーの可能性に着目している。

台湾のアグロフォレストリーでは、日本と同様にシイタケ栽培が行われてきた他、養蜂に取り組むケースもある。そこへ新たに藍を取り入れた青陽農園だが、植えてみると本業であるチョウの生育にもマッチすることが分かってきた。葉さんは「森の上の方と、その下に植えた藍の間に空間ができて、そこにチョウが遊びに来ます」と話す。もともと生息しているコノハチョウも藍の葉を餌とすることが分かっている。さらに農園ではホタルの幼虫やカタツムリのエサとしても藍を重視している。

ハマセンダンで育つクロアゲハの幼虫、2018年10月15日、青陽農園(筆者撮影)

「卓也小屋」に代表される藍の総合施設を建設

農家にとって藍を栽培するメリットは、台湾各地に藍染めの工房が増え、製品のクオリティーも高まっていることと無関係ではない。

台湾省手工芸研究所(南投県草屯鎮)は1998年、一般向けに藍染めの講習会を開き、それまで蓄積してきた研究成果の普及に乗り出した。台湾の藍は日本統治期の文献にも登場し、もともと有益な農作物として扱われてきたが、化学染料の普及により一時は姿を消した。その復活の試みが98年に本格化したことになる。この講習会は同研究所の後身機関にも受け継がれ、ここで藍染めのスキルを身に付けた人たちが台湾各地で工房を開いていった。

台湾の藍染めは、そのデザイン性が高く評価される作品も出ている。台湾の政府系外郭団体が年1回、各地を巡回して開いている台湾デザインエキスポ(台湾設計展)では毎回、開催地周辺で制作されたクリエーティブな作品を展示しているが、台中で開かれた2018年のエキスポではその中に藍染め工房によるテーブルクロスとかばんが登場した。

うっすらと月が掛かった夜空に星々が散らばる風景を藍のろうけつ染めで描いたテーブルクロス。制作した「卓也小屋」は苗栗県三義郷にあり、レストランや宿泊施設を備えた藍の総合施設だ。長さ50メートルの布を1時間に1回転させて染める自動化の機械を15年から稼働させるなど工業化にも取り組む。独自開発の機械で、写真撮影はNGという徹底管理だ。琉球藍の作家でもある沖縄県立芸術大学美術工芸学部の真栄城興茂(まえしろ・おきしげ)教授(かすり織)は18年7月に視察し、「沖縄など日本では藍染めの環境が厳しくなっているが、本物の藍を使ってロールのものまでやっていることに感激した」と、藍染めとしては異例の規模に驚きを隠さなかった。

藍のろうけつ染めで作られたテーブルクロスが台湾デザインエキスポに展示された、2018年9月8日、台中市の文化部文化資産園区(筆者撮影)