台湾で映像の世界に踏み出す

Nobuにはニューヨークで出会った台湾人の友人がいた。2005年末にその友人の招きで初めて台湾を訪れた。台北の都市機能やまったりとした空気が心地良く感じられた。経済的に米国に戻る選択が難しければ、台湾で次の挑戦をするのはどうだろうか。デジタル化の波が押し寄せ、アーティストがエンジニアの自分より優れた機材を揃えている昨今、レコーディングの世界では前途が開けないのではないか。従来のSDから大容量のデータ保存が可能なHDへと技術革新も起こり、これからは映像の時代が確実にやってくる。そんな思いから、台湾で新たに映像の世界に踏み出す決断をした。

「レコーディングの仕事は一カ所にこもることになりますが、映像の仕事は世界中のあちこちの現場に飛ぶことができます。常に新しい刺激を求めてきた自分にとっては、むしろそちらの方が向いているかもしれないと思ったのです」

Nobuは2006年1月に台北に拠点を移し、淡江大学で華語を学びながら、台湾の友人に紹介されたプロダクションで映像制作の仕事を始め、そのまま台湾に留まった。2007年からは台湾科技大学で情報工学を学び始めた。映像や音楽のソフトを自分でプラグインできたらという考えからだった。Nobuの引き出しがもう一つ増えた。

この年「Global Lives Project」に参加した。世界各地の10人に24時間密着取材することで、今の地球を表現しようという映像プロジェクトだ。Nobuはプロデューサー兼ディレクターとして4本の作品を撮影し、ニューヨーク映画祭や国連大学で上映された。また前年の2006年には、台湾の人気ロックグループ五月天(Mayday)のミュージックビデオの撮影に、プロダクション・スーパーバイザーとして参加した。ロケ地はヨルダンとチュニジアだった。英語、華語と二つの言語を学んだことで世界が一気に開けた。貧富の格差や人間の純粋さを目の当たりにし、非日常が日常になる面白さが映像の魅力なのだと感じた。

「Global Lives Project」のメンバーとニューヨーク映画祭に参加する(Nobu/粟田経弘氏提供)
「Global Lives Project」のメンバーとニューヨーク映画祭に参加する(Nobu/粟田経弘氏提供)

2008年のテレビバラエティ番組「青木由香の台湾一人観光局」、2009年の映画「セデック・バレ」、2012年の映画「KANO」を始め、2019年の「あすなろ白書」のリメイク版テレビドラマの「愛情白皮書」、「深夜食堂」東京シリーズ・セッション2、安室奈美恵引退ドキュメンタリーに至るまで、日台合作の映像制作の現場には忙しく動き回るNobuの姿があった。

これまで培ってきた語学、音響、美術、建築、情報工学等の様々な知識や技術を駆使し、映像の現場での実績を積み重ねていったNobuは、2014年には満を持して、北海道十勝地方を舞台とした日台合作の短編映画「My little guidebook」をプロデュースした。監督はかつてニューヨークで出会い、2005年に東京のCM撮影の現場で再会した逢坂芳郎だった。2016年には再び逢坂とのコンビで続編の「My little guidebook - ICE」も制作している。

日台合作の短編映画「My little guidebook」と続編の「My little guidebook - ICE」(Nobu/粟田経弘氏提供)
日台合作の短編映画「My little guidebook」と続編の「My little guidebook - ICE」(Nobu/粟田経弘氏提供)

「何をどう作るのか。予算に合わせて時間とコストをどうはめ込むか。コミュニケーションを密にして齟齬(そご)無くどう進めるか。それらをどう可視化するか。実はプロデューサーもコンサルタントもデザイナーも呼び方が変わるだけで、需要と供給のマッチングを見出す点では本質は同じだと思っています」

人と人とのつながりがもたらす化学反応やポジティブなループから優れた作品は生まれると語るNobu。近未来の目標は「国をまたいで世界に通用する映画を作ること」と言い切る。米国や日本を行き来しながら、既にその準備は着々と進められている。数年後にNobuはどんな作品を引っ提げて私たちの前に現れるのだろうか。今からその楽しみは尽きない。

バナー写真=Nobu/粟田経弘氏(本人提供)