台南っ子の「粋」の感覚

実際、台湾の人は見知らぬ人と話すのが好きだ。たまたま同じ場に居合わせただけの人とも旧知の仲のように親しく言葉を交わす。台湾旅行中、地元の人から声を掛けられた経験のある人も多いはずだ。そんなふうに他者との心理的な距離感が近いから、部屋着のようにくつろいだ姿でデパートのような高級感の漂う場所に行ったとしても、本人も周囲の人も気に留めない。

ただしこれは台南の話で、同じ台湾でも台北のデパートとなると雰囲気が少し違うだろう。そこで台南という町の特殊性についても少し述べてみたい。台南市は人口188万人を数える都市だが、「慢活」(スローライフ)の町と呼ばれている。他都市と比べて古い建物が多く残されており、赤レンガの壁に赤瓦をいただく古民家をおしゃれにリフォームしてカフェや食堂、民宿や商店、アトリエ等を構える人も多い。

サンダルで夜市を散策する人々(筆者撮影)
サンダルで夜市を散策する人々(筆者撮影)

町を経済的に発展させるためには、スクラップ・アンド・ビルド、すなわち古い建物をどんどん壊して新しくて背の高い建物を建てていけばいい。台南も大局としてはその流れの中にあるが、一方において、昔からの建築物や景観を守る意識も住民の間に根強くある。

台南人の古い物を大切にする意識と、気取らない装いには、共通の根っこがあると筆者は思う。その根っことは、自分たちが「数百年間政治・経済・文化の中心地として栄えてきた都市の住民」だという強い矜持(きょうじ)だ。この「台南っ子」としての誇りがあるからこそ、堂々とビーチサンダルでデパートを歩くことができる。自分に自信のない人にはできないことだ。

台南麻豆地方の特産品に「文旦」がある。中秋節の時期に出回る秋の風物詩だ。おいしい文旦、すなわち実が詰まってジューシーな文旦を見分けるコツは、皮のしわ。黄緑色の皮が、しわがれていてみすぼらしいものほど、実は果肉が甘い。以前この事を知らなかった筆者は、いつも光沢があっていかにも新鮮に見えるものを選んでいたから、本当においしい文旦にはありつけなかった。台南の人々も甘い文旦と同じで、見た目はぱっとしないが、そのハートはすこぶるみずみずしくてスイートだ。

気取らず、飾らず、動きやすく、風通しのいい服装。柔和な表情と、穏やかでユーモアのある物言い。他者に対する時に過剰なまでの親切心。こうしたものを台南っ子は「粋」だと感じる。それが、台南が「慢活」の町と呼ばれるゆえんでもある。そんな「粋」な生き方を、筆者も追究していきたい。

バナー写真=筆者と筆者の妻、それに妻の祖父母がいつもの服装で撮った1枚、台湾台南六甲(筆者提供)