台湾にも熱烈な「弱虫」ファン

渡辺 なかなか連載の休みが取れないので(横にいる編集者に向かって)、貴重な体験をしたいとずっと僕はずーっと言ってますが、「読者が待っているじゃないですか」と言われると、僕も「なるほど…」となってしまうのです。台湾に行けたら、台湾編を描くかもしれません。以前、私が事前に出るとアナウンスしたシクロクロスの大会で、「私、台湾から来ました。サイン下さい」とわざわざ僕に会いに来てくれた女性ファンがいました。半分は日本語、半分はスマホの翻訳を使いながら「(主人公の同級生サイクリスト)今泉くんと鳴子くんが大好きです」と言ってくれました。

台湾の方からのファンレターが届いたり、サイン会でもいらっしゃったりしました。台湾には熱烈なファンがたくさんいると思っています。いずれは台湾に行きたいと思うので、その際は温かく迎えてもらいたいです。

一青 大会アンバサダーとして、表彰式やサイン会の司会をしながら、渡辺さんの姿を追っていました。開催日の2日間とも、レースに出走するだけでなく、子供たちと一緒にコースを走り、合間にご自身のチームメンバーの応援やサイン会、ファンとの交流と、ほぼ休みなく動き回っていて、楽しそうな笑顔が印象的でした。こういった経験が、漫画を描いていく原動力となり、作品の随所に生かされているのではないのでしょうか。

渡辺 その通りです。本当に体験したことが重要だと思っています。私の場合、その時の一番「わぁ」ときたものを取り込むようにしています。経験上、だいたい3カ月から半年くらいで臓腑(ぞうふ)に落ちていき、あのときの感じ、味というふうに、ペンを持つ指から出てきます。その瞬間の「どうして」と思う焦りなど自分の心の動きが、時間経過と共に整理され、ネタとなります。また、私は「初めて」をとても大事にしています。もし台湾に行く機会があれば、最初に飛行機を降りたときの匂いや人の空気感などが「ごちそう」だと思うので、体験しに行きたいです。

『弱虫ペダル』
『弱虫ペダル』Ⓒ渡辺航(秋田書店)2008

一青 『弱虫ペダル』で選手たちが歌っている「恋のヒメヒメぺったんこ」という歌も、渡辺さんの実体験からでしょうか。私は、特にヒルクライムのような苦しいときに、主人公の坂道くんのセリフにあるように、歌を歌うことで、本当に楽になることを覚えました。とても効果があると思います。

渡辺 坂道くんは、私の実体験の部分部分を取り入れたキャラクターです。少年誌では、「一番になりたい」人を主人公に据えがちですが、私自身、何が何でも一番になりたい欲望はなく、他人に譲ってしまうタイプなので、坂道くんもアシストタイプの性格となりました。よく、誰かをモデルにしているのか、と聞かれますが、いろいろな人のいろいろな部分を混ぜ合わせ、膨らませ、漫画の中で自由に動いて欲しいと設定しています。

一青 テレビ版『弱虫ペダル』の第5期放送が2022年10月に始まります。とても楽しみにしています。

バナー写真=作家の一青妙さん(左)と漫画家の渡辺航さん(右)(一青妙さん提供)