「お岩さん」の後継者たち
東京ドームシティのお化け屋敷の施工が終わり、キャストのトレーニングが始まる頃に、都内にある「四谷怪談」の「お岩さん」のお墓参りに行くのが、五味氏の例年の行事になっている。
実際、お岩さんのイメージは、日本のお化けに多大な影響を与えていると、五味氏は言う。
「日本のお化けはみんな女性といってもいい。虐げられて、惨殺され、成仏できない女性です。(ホラー映画『リング』の)貞子も(『呪怨』の)伽椰子なども、みんなお岩さんの系譜にあります。虐げられ方や、持つ能力が違っていたりはするけれど、根本は古典的で変わっていない。変わらないということは、そこに日本人の好む物語のカタチがあるのでしょう」
『リング』『呪怨』などのジャパニーズ・ホラーは、海外でも人気だが、日本特有の怖さが新鮮なのだろうか。
「海外でも驚きを持って迎えられたのではないかと思います。こういう質の怖さは見たことがないというのは多分あったのでは」と五味氏。「自分よりも強い物理的なパワーを持っている存在が怖い、そのパワーによって自分が死に追いやられることへの怖さは万国共通です。ところが日本のお化けの場合、パワーはあっても、物理的パワーではない」
恐怖の質は違うとはいえ、日本女性のお化けは海外でも十分威力を発揮していることは確かだ。
その土地ならではの恐怖を届けたい
東京ではドームシティ アトラクションズを始め、さまざまなタイプのお化け屋敷を企画するが、「各地方でなるべくその土地でなければ生まれないお化け屋敷を作りたい」と五味氏は言う。
それぞれの土地の特徴や歴史、人物、習俗などを掘り起こして、物語を考えていく。実際にお化け屋敷を作る場所は、広島マツダスタジアムの『ざくろ女の家』のように、イベントスペースの場合もあれば、空き家や廃墟を舞台とすることもある。昨年夏は、富山県高岡市の商店街にある使用されなくなった雑居ビルの部屋でお化け屋敷『口縫い人形』を開催した。「高岡は鋳物の産地として有名な街。ですから銅にまつわる話を考えた」と言う。銅に付着する緑青が重要なモチーフとなった。
「お化け屋敷を作ったことのない地方はまだまだたくさんあります。例えば、東北では秋田でしか作っていない。青森、宮城、岩手、山形ではまだです。頼みますよ、作らせてください、という気持ち。声がかかれば全都道府県で作りたい。その場所ごとの “ミッション” は必ずあります」
海外で“五味流”お化け屋敷を
長野県の古い日本家屋で生まれ育ち、子供の頃は和室を締め切って暗闇をつくり、自分の家でお化け屋敷を作って遊んだ。それでもまさか、お化け屋敷が生涯の仕事になるとは思ってもみなかったと言う。「将来、お化け屋敷を作る人になるための決まったステップなんてありませんでしたから。続けているうちに、いつのまにかそうなっていた」
お化け屋敷をプロデュースして25年目を迎え、今後は海外にも目を向けたいと五味氏は意欲的だ。「海外のお客さんもたくさん来場して、楽しんでくれている。それなら、その(お客たちの)国に行って、日本のエンタメとしてのお化け屋敷を現地で展開したら面白い」。すでに海外からお化け屋敷を作ってほしいという打診はあるそうだ。
ただし、問題は「身がもたない」こと。忙しさのピークは夏だが、一年中お化け屋敷関連の仕事に追われているそうだ。何よりもの喜びは、お化け屋敷の暗闇でギャーっと悲鳴を上げていたお客たちが、外に出てきて、大笑いしながら、「怖かったねぇ~」「でも面白かった!」と言い合うのを見る瞬間だ。「まさに天職です」と幸せそうに笑った。
取材・文=板倉 君枝(ニッポンドットコム編集部)
撮影=大久保 惠造


