文人墨客が愛した向島百花園

向島百花園では一年を通して四季折々の草花が咲き乱れているが、楽しみは花々だけではない。草木が自然に近い形で管理されているため、ウグイスやシジュウカラ、時にはカワセミも飛来する。また、都会では珍しいコオロギやスズムシの音色が楽しめるのも大きな魅力だ。

蜂は、萩など秋の花々から蜜や花粉を集め蓄えることで越冬するという

向島百花園の開園は1804年。江戸の町人文化が花開いた文化・文政期(1804~30年)に当たる。それまで骨とう商を営んでいた佐原鞠塢(さはら・きくう)が、交遊のあった江戸の文人墨客(ぶんじんぼっかく)の協力を得て、幕臣・多賀家の元屋敷跡である向島の地に開園した。絢爛豪華(けんらんごうか)な大名庭園とは異なり、文人趣味があふれる庭園として当時から有名だった。

歌川広重二代(1826-1869)による「向しま花屋敷七草」(東都三十六景より)。園内奥にある池からは、土橋とスカイツリーのコラボレーションも楽しめる(右)

園内の敷地面積は、サッカーのフィールドよりも少し広い程度。しかし、「萩まつり」の時期には、毎年約2万人の人が訪れるというから驚きだ。園内には花々を水彩画でスケッチしたり、撮影したりする人が数多く訪れていたが、その一方で静かで落ち着いた雰囲気に包まれており、まるで都会の隠れ家のようだ。

名物の「萩のトンネル」が誕生したのは1910(明治43)年。この年の夏、隅田川が氾濫し大洪水になったという。水がなかなか引かなかったため、向島百花園の植物も壊滅寸前になったそうだ。その後、園は復活したものの経営不振に陥り、その打開策として考えられたのが「萩のトンネル」だった。

10種近くの萩に出会える

「萩のトンネル」には、よく観察してみると、山萩と白花萩(しろばなはぎ)の2種類の萩があることに気付く。園内は他に毛萩や蒔絵萩(まきえはぎ)、木萩など、実に10種類近くの萩がこの時期一斉に開花するように植栽されている。意識しないと見落としてしまいそうだが、宝探しをする気持ちで園内を散策していると、それぞれの萩の個性を発見できる。

宮城野萩。葉の先が尖(とが)っているのが特徴で、花は大きく紅紫色をしている。「萩のトンネル」で見ることができる
山萩。宮城野萩に比べて葉が丸い。日本全国に広く分布している。東京近郊で見られるのはほとんど山萩か宮城野萩の2種。こちらは「萩のトンネル」横で見ることができる
江戸絞り(えどしぼり)は白地に紫の絞り模様が美しい品種。枝が垂れないことも特徴
毛萩は野生種の萩の中では花が最も大きいと言われている。宮城野萩と似ているが、葉が丸いことで区別できる

向島百花園がある向島は、現在でも100名近くの芸妓(げいぎ)を抱え、料亭が立ち並ぶエリア。寿司(すし)やソバ、和菓子、洋食など、地元に根ざした昔からの飲食店が軒を連ねている。秋の花々を楽しんだ後は、スカイツリーが見えるこの下町をゆっくりと散策してみると、東京のもう一つの顔に出会えるはずだ。

【施設データ】

「向島百花園」

例年9月中旬から10月上旬に「萩まつり」を開催。この時期に合わせて「萩のトンネル」が見頃を迎える。開催中は萩の紹介を中心に園内をまわる「野草ウォッチング」や、「新内(しんない)流し」の公演などで園内は賑(にぎ)わいをみせる。

向島百花園の入場門。左手の受付は赴きのある木造建築
  • 所在地:東京都墨田区東向島3丁目18-3
  • 電話:03-3611-8705
  • 開園時間:09:00〜17:00(入園は16:30まで)
  • 休園日:年末・年始(12月29日~翌年1月3日まで)
  • 入園料:一般 150円、65歳以上 70円
    (小学生以下および都内在住・在学の中学生は無料、20名以上の団体割引あり)
  • アクセス:東武スカイツリーライン「東向島駅」より徒歩約8分、京成電鉄押上線「京成曳舟駅」より徒歩約13分、都営バス 亀戸〜日暮里(里22)「百花園前」より 徒歩約2~3分
  • 向島百花園公式サイト

取材・文=阿部 愛美
撮影=三輪 憲亮

バナー写真=見頃を迎えた萩の花を楽しみに、多くの人々が向島百花園を訪れる