兄の死によって考えさせられた「家族とは何か」

「映画作家として何がなんでもこれを撮らないとダメだ」という気持ちで、4年間かけて少しずつ書き進めていったのが今回の脚本。橋口亮輔監督の『恋人たち』(2015年)で助監督を務めたときに知り合ったプロデューサーに持ち込んだ。

「書く根拠という意味で言えば、これだったら出せる、というのがありました。それは、兄の死なんです。当たり前にいる家族が突然いなくなる、その衝撃が自分でも驚くほど大きかった。彼は何も告げずに死んだので、家族は罪悪感に苦しむんですよ。あのとき救いの手を差し伸べていたら…と。その一方で、彼の身勝手さに対する怒りもある。負の感情が渦巻いて心が壊れそうになる。長いこと助監督をやっていて、たいていのことには動じなくなっていたんですが…」

長男・浩一役の加瀬亮 ©松竹ブロードキャスティング

なぜ兄が死んでしまったかがわからない。そしてそれほど家族に愛着を感じていたわけでもない自分が、なぜそういう感情になってしまったかがわからない。兄の死に苦しみながらも、やがて「わからないことを知ろうとする家族の話は、映画になると思った」という。確かにこの『鈴木家の嘘』は、愛や憎しみや怒りが渦巻く家族の物語でありながら、その展開には謎の答えを探し求めるミステリーの要素が巧みに織り込まれ、観客を引きつける。そしてもう一つの重要な要素が笑いだ。全編を通じて、シリアスとコメディが同等に並存している。

「1カ所も笑いがない映画はダメだと思っているんです。人が年がら年中、24時間ふさぎこんでいるのかといったら、そんなことはないわけで。実際、お葬式だって思わず笑ってしまうような出来事があったりするでしょう。不謹慎な笑いではないんですよ。親しい者同士の愛情ゆえなんです。自死という重いテーマでありながら、こういう背景が描けると、家族の死に寄り添った普遍的な映画ができるんじゃないかなと思った。僕の体験は特殊ですけど、その特殊な面を強調したくなかった。ちゃんと伝えるには、お客さんに見てもらえるような演出をしなければいけない。それが映画監督としての使命だと思うんです」

『鈴木家の嘘』 ©松竹ブロードキャスティング

映画のタイトルにもあるように、鈴木家の人々はある「嘘」をつき通すために右往左往するのだが、その陰で切実に真実を追い求めている。野尻監督が、兄の死に対する自身の感情に、できる限り正直に向かい合おうとしてこの物語を描いたのが伝わってくる。彼はこれからどんな映画を撮っていくのだろう。

「映画を作る側が嘘をついたら、映画の豊かさがなくなってしまう。正直でありたいと思うし、いくら逃げても、隠そうとしても結局は出ちゃうので、それは映画監督を選んだからにはしょうがないのかなと思うんです。それと、白黒はっきりつけた映画は撮りたくない。紋切り型の『正しい』人間ばかりを描いていたら、この世界はどんどん息詰まってしまう。映画はそういう『同調圧力』からの逃げ道だったはずですよね。観客が感情を解放できるような自由な人間を描いて、人間を肯定する映画を撮りたい。人間は過ちを犯すものです。極端なことを言えば、人を殺したいと思う瞬間だってある。しかし、今の時代はそれが『殺人はよくない』という単一の結論に短絡してしまう。そうではなくて、なぜ殺したのかを描くのが映画だと思う。人間というものに正直に向き合う映画を撮っていきたいです」

インタビュー撮影=花井 智子
聞き手・文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)

作品情報

©松竹ブロードキャスティング
  • 出演=岸部 一徳、原 日出子、木竜 麻生、加瀬 亮、岸本 加世子、大森 南朋、ほか
  • 監督・脚本=野尻 克己
  • 撮影=中尾 正人
  • 照明=秋山 恵二郎
  • 録音=小川 武
  • 美術=渡辺 大智/塚根 潤
  • 編集=早野 亮
  • 音楽・主題歌「点と線」=明星/Akeboshi(RoofTop Owl)
  • 配給=松竹ブロードキャスティング/ビターズ・エンド
  • 製作年=2018年
  • 上映時間=133分
  • 第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞受賞
  • 11月16日(金)より、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
  • 公式サイト=http://www.suzukikenouso.com/
  • フェイスブック=https://www.facebook.com/suzukikenouso/

予告編