ミーハーな私的百人一首スポット

『ちはやふる』が大ヒットしたからか、今度は『名探偵コナン』までもが競技かるたを題材として取り入れた。2017年公開の劇場版『名探偵コナン から紅の恋歌』であり、このタイトルも明らかに前出の在原業平の歌に因んでいる。競技かるたの描写のリアリティは当然『ちはやふる』には遥かに及ばないが、倉木麻衣による主題歌「渡月橋 〜君 想ふ〜」は歌もプロモーション・ビデオもあまりにも美しいので完全に惚れ込んだ。このようにして、百人一首には全く登場しないが、京都にある渡月橋も私的百人一首スポットになったのである。ほんとにミーハーだ。

京都嵐山・渡月橋
京都嵐山・渡月橋

渡月橋は桂川に架かる大きな橋で、色づいた嵐山の彼方から流れてくる桂川の奔流を橋の上から眺めると、なかなか壮観なものがあった。奈良を訪れたついでに訪問したが、流石有名な観光スポット、平日の午後にもかかわらず橋の上は人がうようよいて、密もいいところである。その多くは修学旅行生だったから仕方ないけれど。

渡月橋の近くにある「嵐山公園亀山地区」では百人一首の歌碑が各所に散りばめられており、それらの歌碑を拾い読みし、古の華やかな王朝文化を偲びながら散策するのがとても楽しい。と思ったら、周恩来による中国語現代詩の詩碑もあったりで、時空を飛躍したような錯乱を覚える。更に進むと幽静で緑豊かな「竹林の小径」と、紅葉がちょうど見頃を迎えた天龍寺があり、赤と緑のコントラストが実に絶妙だった。この辺りに長居し過ぎたせいで、肝心な百人一首編纂の地、つまり常寂光寺の境内にあったと伝わる藤原定家の小倉山荘「時雨亭」の跡には、寺の拝観時間を僅か数分過ぎてしまい、訪れることができなかった。手痛い失敗である。いつか再訪したい。

残念ながら拝観時間に間に合わなかった常寂光寺。境内には藤原定家が小倉百人一首を編纂した小倉山荘の跡がある
残念ながら拝観時間に間に合わなかった常寂光寺。境内には藤原定家が小倉百人一首を編纂した小倉山荘の跡がある

2020年コロナ禍の影響は競技かるたの世界にも及び、多くの大会は中止を余儀なくされた。やっと再開された後でも、選手はマスクを着用しなければならなかったり、試合中に大声を出してはいけなかったりで、不自由を強いられることが多い。ただでさえ激しく長時間の競技なのにマスクで臨まないといけないのはさぞかし息苦しいだろうし、せっかくの華やかな袴姿に無粋なマスクというのはあまりにも似合わない。このエッセイを書いたのは2020年の年の瀬だが、間もなく迎える新しい一年において状況が好転し、新しい始まりになるようにという願いを込めて、競技かるたの序歌を以てエッセイの結びとしよう。

難波津に咲くやこの花冬ごもり
今を春べと咲くやこの花――

写真は全て筆者撮影、提供
バナー写真=紅葉と竹林の美しいコントラスト

(*1) ^ 競技かるたの選手は必ずどこかのかるた会に所属しなければならないというルールがある。早大かるた会所属の西郷直樹は1999年、21歳で史上最年少で競技かるたの名人となり、以来、2013年に名人戦出場を辞退するまで連続14期と歴代最長の名人位をキープした永世名人号保持者である。ちなみに永世名人とは名人を連続5期あるいは通算7期務めた者に与えられる称号だが、西郷はそれを遥かに超えているので、競技かるたの世界では伝説のような存在と言える