世界の舞台へ、調整とマネジメント能力磨け
5月30日に米オレゴン州で行われたダイアモンドリーグ第3戦で、中国の蘇炳添選手が9秒99をマーク。黄色人種として初めて、公認記録で9秒台を記録した。桐生選手は先を越された形になるが、実はタイムのランキングはあまり意味がない。4年に1度のオリンピック、また2年に1度開催される世界陸上。この2つの大舞台で結果を出せるかどうかが、アスリートとしてはきわめて重要だ。
桐生選手には、それにこそチャレンジしてほしい。本人も十分に意識していると思うが、9秒台は通過点。五輪の100メートル決勝で走ることを目標にしてほしい。
これまでを見ると、桐生選手が好記録をたたき出しているのは4月、5月の時期に限られている。今後はここ一番の大会に合わせてコンディションを調整し、自分のピークにいかに持ってくるかという「ピーキング」の習得が必要だ。

もう一つは、大会予選から準決勝、決勝まで、正味48時間の自己マネジメント能力を磨いてほしい。決勝までの2回を、いかに負けないで走れるか。最高のパフォーマンスは、3回の中で1回出せればいい。いくら速くでも「もろい速さ」では勝負に勝てない。なるべく力を温存して予選を通過するのがレースのマネジメントだ。
それに加えて、レース本番の心の持って行き方がある。国民の多くがレースに注目し、ものすごいプレッシャーがかかる中で実力を発揮できるか。メンタルトレーニングをするなり、数々の修羅場をくぐっていく中で獲得していかないといけない。
身体的なポテンシャルの高さについては、既に証明されている。だが、世界の舞台で勝負を決するこれらの点については未知数。これこそ彼が今後取り組む課題となる。
24歳で迎える東京五輪
桐生選手は、まだ19歳。オリンピックと世界陸上合わせ、大舞台のチャンスは10回近くあるだろう。だが逆に言えば、学習し、経験を積む機会は限られているともいえる。当面の最高目標としては、24歳で迎える東京五輪が一番いいタイミング。それまでに実力で9秒台を記録し、何かをつかむことがあれば飛躍できるのではないか。
記録はもちろん東京五輪の後でも狙える。朝原宣治さん(2008年引退、北京五輪4x100mリレー銅メダリスト)が自己ベスト記録(日本歴代3位の10秒02)を出したのは29歳の時だった。
桐生選手が9秒台を出せば、他の選手もマインドセットが変わる。2020年までに日本の選手が2人、3人と9秒台をたたき出し、東京五輪で世界のライバルと競い合っていることを期待したい。
バナー写真:陸上ゴールデンGPの男子100メートルで力走する桐生祥秀(右、東洋大)とジャスティン・ガトリン(米国)=2014年5月11日、東京・国立競技場(時事)