ウクライナ停戦仲介に本腰

竹中 トランプ氏はウクライナ戦争を「24時間以内に終わらせる」と繰り返し表明してきたが、大統領就任後、ウクライナ戦争にどのように対応するだろうか。

森 停戦のための仲介は、本腰を入れてやるだろう。トランプ政権が内政と外交、どちらに力を入れて取り組むかという話で行くと、まずは内政のウエートが高くなるのだろうが、その中でも就任から当初1年の外交政策では、ウクライナ戦争への取り組みが目玉となるかもしれない。担当特使にはキース・ケロッグ退役陸軍中将が指名された。「米国第一政策研究所(AFPI)」の政策提言で同氏は、ウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟凍結、ウクライナへの安全の保証、プーチン大統領が停戦交渉のテーブルについて、非武装地帯を設定し、停戦すれば対ロシア制裁を一部解除するなど、いくつかの要素を含む停戦案を提案している。領土主権に関して当面の間は、プーチン氏の大統領在職期間中は棚上げにするものの、将来的な外交による奪還の可能性を残すとしている。そして、ウクライナが納得する和平協定を締結した場合にしか対ロシア制裁を全面解除しないとアメリカと同盟国は約束する。この和平協定には、二国間の安全保障・防衛を中心にしたウクライナ防衛のための安全保障アークテクチャーも含まれるべきとしている。

ロシアによる不法占領地域の扱いと、ウクライナの安全の保証などについて合意するためには、領土主権と停戦を切り離したり、ウクライナが諸外国の提供する安全の保証の内容に納得するなど、相当な時間が必要になるとみられるので、とても「24時間で」とはいかないのではないか。

竹中 ウクライナのゼレンスキー大統領は、納得のいく条件がそろわなければ停戦に強く反対するだろう。その場合、トランプ氏はどうするのか。

森 ウクライナへの圧力として言われているのは、アメリカによる対ウクライナ支援の停止だ。トランプ氏の考える決着の条件を飲めないなら、「支援を継続できない」、あるいは「徐々に支援を減らす」と圧力をかける。「(アメリカの)議会が承認しない」といった形で、議会をテコにする手法を使うかもしれない。一方、ロシアが交渉を拒むような場合には、交渉のテーブルに引っ張り出すために、一時的にアメリカがウクライナ支援を強化する可能性もある。

「強い同盟国」「弱い同盟国」を区別

竹中 新たなトランプ政権で、NATO諸国や日本・韓国などの同盟国の関係はどう変化すると考えられるか。アメリカは、同盟国に防衛費のさらなる拡大を要求するのだろうか。

森 同盟条約があるから同盟国を守るというロジックではなくなるということだろう。共和党系の戦略家が展開している議論の根底にあるのは、アメリカがボロボロにならないと守れないような国は、同盟国であっても防衛対象とすべきではない、アメリカが甘受可能なコストで守れる国であれば、防衛対象としうる、という考え方だ。端的に言えば、「強い同盟国は守る。しかし、弱い同盟国は足手まといでリスクだから守らない」ということだ。

そこで弱い同盟国と強い同盟国の境界線が、国防予算の対GDP(国内総生産)比の数字として出てくるということだ。これが3%になる可能性があるという臆測がある。要するに、同盟はアメリカにとってメリットがあるから結ぶものであって、そもそもアメリカが国力を消耗しなければ守れないような国と同盟を結ぶことにメリットがあるのかという、ある意味では常識的な見方だ。

台湾については、トランプ氏は「対GDP比10%」と言及したことがあるようだ。もちろんすぐに実現はしないが、「狙われているのはあなたたちで、中国を抑止するための防衛力増強なのだから、台湾がNATOと同じ2~3%でいいわけがない」というロジックのようだ。その増やした防衛予算で、アメリカの防衛装備を購入しろということになるのではないか。アメリカの防衛産業の拡充とセットになっているとみられる。

竹中 トランプ氏は日米関係をめぐって「アメリカは有事の際に全面的に日本を守らなければならないが、アメリカが攻撃されても日本は何もしない」と何度も発言している。一方で、石破茂首相は日米安保条約をより双務的にすることを持論としている。両首脳がこの点で一致することは考えられるか。

森 双務性について、例えば米軍が西太平洋で中国と交戦状態に入ったら、その具体的な状況にもよるが、日本は「存立危機事態」を認定して集団的自衛権を行使しうる。地球の裏側で助太刀するのは無理だが、状況次第で「アメリカのために日本は行動を起こせる」と言うことができる。しかし石破首相の、地位協定をめぐる話から双務性を展開すると、パンドラの箱を開けるというか、トランプ氏が「一国主義」丸出しの議論を展開して、やぶへびになる可能性もある。例えば、「米軍の駐留に必要な地位協定で不都合が生じるというなら、米軍を撤退させましょう」と言われて、「ちょっと待ってください、そういうことではなくて…」というやり取りになり、関係がこじれるだけで何も得るものがないという結果を招くことが想像される。

日本も追加関税の対象国に

竹中 トランプ氏はこれまで中国が60%、他の国は10〜20%の関税をかけるという方針を示してきた。日本も対象になるだろうか。

森 日本は貿易統計ベースで対米輸出から輸入を差し引いた収支は8.7兆円で、対米貿易黒字は第1次トランプ政権の時よりも増えているので、むしろ確実に追加関税の標的とされるのではないか。アメリカ向けの輸出品を持つ会社の大半は、関税によってマイナスの影響を受ける。メキシコ経由で製品をアメリカに輸出している業界は、対メキシコでも25%の関税ができ、大変苦しい状況になりそうだ。日本はここで何ができるか。日本は対米投資額でナンバーワンの国であり、それも5年連続1位のはずだ。その実績をアピールしたり、あの手この手でタフな交渉をしたりして、例えば適用除外を確保することなどが考えられる。

追加関税のみならず、防衛費の増額、そして同盟強靭化予算(米軍駐留経費)の負担増も要求してくるという臆測がある。この3点セットがアメリカ「一国主義」に関わる面での日本への圧力だ。これに対して、もう一つの「優先主義」の観点からは、「反中連合」の強化という文脈で、二国間・ミニラテラルの同盟強化が位置づけられるだろう。この視点では日本は要の国となる。日米の防衛協力は引き続き前進させることになるだろう。したがって、日米の「摩擦」と「協力の促進」、この2つが同時に出てくるのが第2次トランプ政権の特徴になるのではないかと思われる。

欧州と中東は、トランプ政権内の「抑制主義」と「(アジア)優先主義」が合致して、アメリカは「紛争にフタをして引く」という姿勢になる。中東はイスラエル優位で紛争を収束させて、イラン封じ込めに向かうだろう。対イラン政策が具体的にどのようなものになるかはまだ分からないが、過剰にイランを追い詰めれば、核武装に向かうというリスクが出てくるので、そのような事態に至らないような紛争の管理が必要となる。トランプは中東で紛争に巻き込まれたくないので、対イラン政策を無制限に強硬化させるようなことは控えようとするかもしれない。

欧州と中東で「火消し」をして、インド太平洋にピボット(方向転換)することによって、中国との対峙(たいじ)に焦点を絞る、というのが青写真なのではないかと思われる。それがうまくいくかどうかは、これから起こる事に左右されるので、まったく見通しは立たないが、かなり困難な道のりであるのは間違いない。4年間、欧州と中東と中国に同時に関与し続ける可能性も十分ある。

竹中 中国に関税を60%かけるというのは実現可能なのか。

森 アメリカ国内でインフレの心配があり、加減するのではという見方がある。2年後には中間選挙がある。負けて上下院で過半数を失えば任期後半に共和党のアジェンダを推進することが困難になる、というのが政治的な思惑だろう。関税を巡っては、その目的が「アメリカ経済の対中依存度を低下させる」ことにあるのか、それとも「中国から何かを引き出すための手段」なのか、どちらなのかがまだはっきりしないところがある。中国だけでなく、世界各国に「10~20%」の追加関税をかけるという発言をみると、先に述べた通り「製造業の自立」という考え方が根底にありそうだが、特に中国に要求をのませるなり譲歩を引き出すつもりがあるのかどうかは、中国が報復関税をかけてきたときに何らかの交渉に乗り出すかどうかをみれば分かるだろう。中国による「不公正経済慣行」の是正を要求していくこともあるかもしれない。

日米二国間より難しそうな世界情勢への対応

竹中 最後に今後の日米関係の見通しだが、米中関係との見合いで考えると、関税問題などでもめることはあっても全体的には結局、安定基調で進みそうだと考えるか。

森 追加関税の賦課や防衛予算増の要求が現実化するか、どう現実化するかは、まだ分からない。もし実際にこのような要求を突きつけられたら、実務的な対応は大変だろうが、政治的に対応することは不可能ではないと考える。警戒は必要で、今後の展開を注視しなければならないが、今のところ慎重に楽観している。むしろ日米の二国間の問題よりも、台湾をめぐる問題や朝鮮半島情勢、ウクライナや中東などで起こるであろう事態や変化に、日本がどう対応していくかという問題の方が難しくなるのではないか。危機が発生した時にトランプ氏が適切な判断を下せるのかという懸念もある。新型コロナへのトランプ氏の対応ぶりを思い起こすと、やはり不安は小さくない。

(編集部注:インタビューは2024年11月29日、東京都内で行った)

バナー写真:共和党下院議員団との集会で演説する米国のトランプ次期大統領=2024年11月13日、首都ワシントンのホテル(CNP/ABACA/共同通信イメージズ)