“神事”を担う相撲人に育ってほしい——大嶽親方
遠く離れた異文化の地で頑張る大砂嵐をときに厳しく指導するのが大嶽部屋の大嶽親方(元十両・大竜)だ。イスラム社会からの力士受け入れに不安はなかったのだろうか。
「私自身、イスラムという宗教を否定するわけではありませんが、言葉や文化の違いはいろいろあるので、『大丈夫かな?』という部分は正直あります。ただやることは、日本人力士であろうが、外国人力士であろうが関係ない。同じなんです。稽古をして、番付を上げるというのが目標ですし、それを軸として、みんなやっています」
大嶽親方がとりわけ大砂嵐に厳しくなるのは、“礼儀”に関すること。日本で重視される礼儀をもっと学んでほしいと願っている。
「相撲は、ただ強ければいいという世界ではない。外国人であろうと『日本の文化をしっかり学んでいるし、礼儀も正しい』と思われないといけないし、そういうことで周りの人からも、『大砂嵐、頑張ってるね』と言われるようになるんだと思います。そういった謙虚な気持ちが大事。大砂嵐には礼に始まり、礼に終わるといった部分もしっかりと学んでほしいと思っています」
親方は、思い切りの良い豪快な相撲を取れる大砂嵐の才能を認めている。稽古に対する姿勢も評価している。将来、相撲界を背負ってたつ人材だからこそ厳しくなるのだ。
「中東やアフリカの方をはじめ、海外では『相撲=スポーツ』と見られていますが、相撲はスポーツでありながら“神事”なんです。
例えば相撲では本場所前に “土俵祭”を執り行い、神様に下りてきてもらいます。そして、神様の前で相撲を取る。だからこそ儀式があるんです。他の武道、例えば剣道、柔道にも“礼”というのはありますが、競技を始める前に儀式があるのは相撲だけ。先ほど言った礼儀、マナーなど、相撲のすべてが神事に関係しています。
スポーツなら強ければそれでいいし、強ければ認められる世界でしょうが、我々は神事という部分で、人としてどうあるべきか、相撲人としてどうあるべきか、というのを追求していかなければならないのです。大砂嵐をきっかけに興味を持ってくれた外国の方々には、彼の成長を通して、相撲のそうした魅力を見てほしいと思っています」
聞き手=原野 城治(一般財団法人ニッポンドットコム)取材協力=大鵬道場 大嶽部屋、財団法人日本相撲協会
(*1) ^ 引退まで203連勝を記録し、外国人選手には無敗という大記録を打ち立てた日本でも有数の柔道家・山下 泰裕が唯一出場した五輪大会が1984年のロサンゼルス大会だった。2回戦で軸足の右ふくらはぎを負傷した山下だが、決勝まで進出。対戦相手となったエジプトのモハメド・ラシュワンは強気の攻めに徹するものの、負傷した足を攻めず、山下が横四方固めで勝利した。試合後、ラシュワンのフェアプレイ精神は高く評価された。
(*2) ^ 蜂窩織炎とは、皮膚の深い層から皮下脂肪組織にかけて細菌感染することによって発症する化膿性炎症。怪我や風邪による細菌感染などが原因となり、特に下肢に発症しやすく、広い範囲が赤く腫れ、痛みをともなう。発熱、頭痛、関節痛などをともなうこともある。

