最先端と伝統の化学反応

——私見だが、閉会式でショーを見た当初は、日本が「テクノロジーの国」であることと、4年後の「近未来の世界」を提示しているのではと感じた。

今最先端の技術を披露したとしても、この世界は日進月歩。そういうことだけではない。むしろ、江戸時代からの下町文化がいまだに息づいて大の祭り好きで、そんな伝統からスポーツの大会に異常に盛り上がることのできる東京、同時に情報技術、デジタル技術が発展し、集積する場でもある東京。この古いものと最先端が共存し、絶妙なバランスで絡み合っているのが大都市・東京だということを伝え、「なんだかいいオリンピックになりそうだな」と思ってもらうことを意識した。この概念については、江戸東京博物館の竹内誠館長(当時)に話を伺い、大きなヒントを得た。

例えば、ショーの冒頭の「君が代」。ブルガリアの合唱団と日本の少女合唱団が合わせて歌っている。曲は椎名林檎さんプロデュース、三宅純さんがアレンジし、英BBCだったと思うが「世界で最も美しい国歌の一つ」と絶賛してくれた。

またプロジェクションマッピングで日の丸を見せる際、女性たちがパーソナルモビリティと呼ばれる乗り物ロボットで登場するが、彼女たちの衣装は日本の折り紙の形でデザインされている。冒頭では被災地の学生を中心に人文字で「ありがとう」を世界中に伝えるという、日本人らしい礼儀作法も取り入れている。

50人のダンサーによるパフォーマンスは東京五輪の各競技を表現しているのだが、この衣装も歌舞伎の「早着替え」の手法を取り入れた。「応援」をテーマにしたダンスパートでも、おもてなしとか正座とか、礼節とか,一糸乱れぬ隊列とか、日本人らしさを表現している部分がある。デジタルアートもふんだんに使っているが、その中には江戸切子や浮世絵風の日本古来のアートデザインが含まれている。

伝統的な日本と、最先端の日本。この2つをごちゃまぜにするのではなく、化学反応させて、世界を驚かせる。「両方あってよかったね」ではなく、ハイブリッドし、一体化させることを心掛けた。

「カッコいい」五輪で日本のブランド向上を

——「予告編」を制作することで、2020年の五輪本番へのヒントを得た部分もあるのではないか。東京五輪・パラリンピックがどんな大会であってほしいか。

開会式、閉会式といったセレモニーではなく、期間中のスポーツの舞台をもっと楽しくする演出が必要だと思う。退屈に見える種目には楽しさを加えたり、ある一つの国が圧倒的に強い競技では弱いチームにスポットを当てたりとか。パラリンピックも、もっと多くの人たちが興味を持つものに変えていく。パラリンピックのハンドオーバーも、障がい者アスリートの方々を中心に据えて、「暗さを感じさせない、むちゃくちゃカッコいい内容にしよう」と仕上げた。

日本が,東京が背負っているものはたくさんあると思う。2020年の五輪が、大会のそもそもの在り方を大胆に変革するプレゼンテーションの場になったらいいなというのが、個人的な思いとしてある。今までのような開会式とかは「やらない」くらいの大胆さで、いきなり陸上100メートルの決勝から始まるとか。

そのためには才能豊かな若い人や女性が前面に出て、活躍してもらったほうがいい。その方が無駄な予算も使わないで、大会がカッコよくなると思う。この「予告編」制作でも椎名林檎さん、演出・振付家のMIKIKOさん、デジタル第一人者の菅野薫さん、メディアアーティストの真鍋大度さん、映像演出の児玉裕一さん、アートディレクターの浜辺明弘さんらが大活躍し、それを証明できた。

五輪の大会自体はわずか2週間ほどしかない。そこに全ての力を注ぎ、祭りの後の疲弊感だけが残るようなことは避けるべきだ。五輪自体は盛り上がってほしいが、大会を開催したことで「その後の日本、東京がトクをしたね」と皆が思えるようになってほしい。

「開会式でお国自慢をするパターンを日本はやめたね」とか「金メダルをいくつとったかという価値の基準を、東京の大会が変えたね」とか、世界の人々が「東京に教えられたね」という五輪をつくることも大事ではないか。

2度目の五輪開催にふさわしい「余裕」があり、また新しい五輪の幕開けを感じさせるような、提案性のある大会になってほしい。その結果、世界の人々が日本、そして東京をもっと知りたくなり行きたくなる、また日本人そのものを好きになる。そういうイメージを残すことで、日本のブランドが向上する。そんな大会にすることが求められていると思う。

聞き手・文=石井 雅仁(ニッポンドットコム編集部)
インタビュー撮影=大谷 清英(ニッポンドットコム編集部)

バナー写真:リオデジャネイロ五輪の閉会式で行われた、2020年東京五輪を紹介するアトラクション=2016年8月21日、ブラジル・リオデジャネイロ(時事)