「評価」可視化で高い質を確保
キッズラインを立ち上げてみると、頼りになるベビーシッターを待ちわびていた人が多いことを改めて実感した。
「育児の相談を誰にもできない母親たちが多い。例えば、自分の子どもは成長が遅いのでは、と自分の周囲の狭い世界の中で比較して不安を募らせる。でも、たくさんの子供たちと接しているシッターに相談して、『焦ることはありません、大丈夫ですよ』と言ってもらえれば安心できるんです」
もちろん、キッズライン成功の鍵はベビーシッターの「質」の担保だ。
「日本の保育の現場が旧態依然としているのは、給料の低さなどから優秀な人材が定着しないことが一因と仮説を立てています。教育や保育の現場に優秀な人が集まればいい流れになるのではと。採用の入り口は面接をしっかり行い、登録したシッターはその仕事が毎回評価(体験レビュー)され、情報はオープンで共有される。その緊張感がシッターのサービスの質のチェックにつながり、評価の可視化を高めることで、事故が起こりにくくなる。また、ITを活用してマッチングを効率良く成立させることで中間マージンは徹底的に下げ、件数を積み上げることでシッターも会社も経済的メリットを享受できる仕組みを作っています」
現在登録しているシッターは1700人程度。継続的に利用する顧客も増え、全国に「キッズライン応援団」のネットワークができている。シッター登録の際は、キッズライン社員との面接を経て、利用者である「ママトレーナー」の家でオン・ザ・ジョブトレーニングを兼ねた「最終面接」を行う。
「保育」の対象となるのは0歳〜15歳の子どもたち。年齢上限が高いのは、「家庭教師」としてのサービスを提供する場合も多いからだ。
「大学生が600人登録していて、その中にはバイリンガルの人もいます。大学生が学校への送迎もしてくれて、宿題も教えてくれて、ご飯も一緒に食べてくれる。母親は “ママ友” に『子どもはベビーシッターが面倒を見てくれている』と言うより、『家庭教師が来ている』の方が言いやすい。子どもを他人に預けることに心理的抵抗や周囲への気兼ねを感じる女性たちが多いのです。家庭教師と呼ぶことで、自分も気が楽になるし、周囲への目も気にならなくなります」
企業や自治体にも働きかける
ベビーシッターの時給は1000円からだが、経験や提供するサービスによって自分で価格を設定できる。その一方で経沢は、より安く利用できるように法人や自治体に働きかけている。「法人契約では、福利厚生の一部としてキッズライン利用料金を補助する仕組みを導入してもらっています。品川区、渋谷区、千代田区、調布市、福岡市など、いくつかの自治体でも利用する際は助成を受けることができるようになりました」
利用者にはシングルマザーも多いと言う。「近年、シングルマザーの貧困がよく取り上げられますが、彼女たちは働く時間が確保できないために、労働市場で弱者になってしまうこともあります。もちろん、経済的に成功しているシングルマザーもたくさんいますが、そうでない人もいる。企業や自治体の補助でベビーシッターを安く利用できれば、よいきっかけになるのでは。子どもたちもいろいろな大人に触れることができる。現状では、多くのシングルマザーたちは閉じた世界に置かれがちではないでしょうか。それがベビーシッターの利用で変わるきっかけになってくれればいいと願っています。母親にも子供にも、希望の光が見える人生の選択肢をもっと提示していきたい」
「命を預かる仕事」をする覚悟
キッズラインは現在社員15人、アルバイトを入れて30人弱の体制だ。メンバーの多くは以前IT系企業で働き、広告やゲーム開発に携わっていた。「エンジニアのほとんどが既婚ですね。結婚して子供ができ、テクノロジーを生かして社会に貢献できるような仕事がしたいと集まってきたメンバーが多いです」
創業から4年、将来的には海外進出や株式上場も視野に入れていると言う。今後、新規参入のライバルも増えるのではと聞くと、自信に満ちた答えが返ってきた。
「このサービスは、経営者に覚悟がないとできません。命を預かる仕事ですから。一度起業を経験して、3回の出産を経た私だからこそつかめた感覚を生かして(育児支援ビジネスを)実現させた。例えば男性経営者だったら、恐らく事故のリスクに備えて、(業務の透明性を高める代わりに)細かいルールをたくさん作るのではという気がします。逆にそれが利便性や安全性を下げることにもなる。(利用のための)プロセスが複雑化することで、料金が高くなる可能性もあります。それは利用者にとってとても非効率で使い勝手が悪いと思います」
キッズラインの最大の “武器” は、起業家・母親としての経沢の経験が生み出した質の高いサービスと、全国の利用者たちから得た「信頼」であることは間違いない。
(本文中敬称略)
取材・文=板倉 君枝(ニッポンドットコム編集部)
写真=三輪 憲亮

