あくまでも正当な株価形成を求める
——安倍政権は成長戦略の一環として、投資家による企業監視を強化する意図でコーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの適用を打ち出したわけですが、現実問題として効果があると思われますか。
村上 あると思いますし、今後、より一層効果が表れると思います。アメリカと日本で大きく違う問題は内部留保だけなんですよ。ROE(自己資本利益率)で見るとアメリカが15%程度で日本が7%。じゃあ、その8%の違いって何かといえば、内部留保なんです。つまり内部留保が激減すれば、アメリカの市場と変わらなくなる。特に内部留保が厚い会社は大体持ち合い株式です。つまり、PBRが0.4、0.5といった会社はネットキャッシュが時価総額より多く、不動産資産や持ち合い株式も多いところがほとんどですね。
リーマンショックや東日本大震災などを経て、リスクウェイトをどれぐらい積む必要があるのか、統計で見れば分かるはずだと思いますが、日本の上場企業はそのプロセスを怠ってきているところが多いと思います。
直接金融で資本調達をするということは、あるべき正当な株価を維持することが前提です。今の日本企業は全くそれができていない。一方で、今、日本経済の何が問題かといえば、誰も銀行から借りない、つまりマネーサプライは増えているけれども、全く市中に出回るお金は増えないこと。つまり、みんなが内部留保を持っているからです。
銀行借入を利用しなければ、銀行も利益が上がりません。本来であれば金融は血液のようなもので、きちんと回ればそれが経済活動にプラスの影響を及ぼします。上場企業の方たちはリスクウェイトを算出して、それに基づいた資本調達というのをやっていかなければいけないと思います。
手元の資金は投資に回して利益拡大、株価向上を目指すべき
——企業に投資に回さない資金が貯まっているという現状が、コーポレート・ガバナンスの浸透によって、株主が声を上げることで大きく変わると思われますか。
村上 スチュワードシップ・コードができてから1年半余り、コーポレート・ガバナンスができてからまだ半年で、かなり飛躍的に変わってきていると思います。海外のアクティビスト・ファンドも、日本での活動が活発化しています。ですから、確実に投資環境は変わっていくと思います。
——先ほど、資本効率を上げることがいい会社だとおっしゃいましたが、具体的にはどんな会社、あるいは経営者が相当しますか。
村上 SoftBankのように、チャレンジして、結果を出している会社はいい会社ですよね。チャレンジするというのは、例えば内部留保をきちんとした投資に向かわせて、もしくはレバレッジをかけて、より一層の利益を追求していると会社です。そういう会社が事実、株価も向上しているし企業規模も大きくなっているので、やはりそういう経営者の方を株主としては応援したいと思います。
父と同じ道を歩むと決めた理由
——今度は、絢さんご自身のことについてお伺いしたい。お父様の村上世彰氏の「村上ファンド」が2006年に解散してから、リーマンショック、東日本大震災があって、この10年で世界は大きく変わりました。その中で、常に10年前の父親との対比で語られたり、取材を受けたりすることに対して、どう感じていますか。
村上 メディアの方は基本的に私ではなくて、父に会いたい、父のコメントが取りたいのだろうと思います。私自身は父を通してうちの会社(C&I)に注目していただいていることが有り難いです。そのおかげで、コーポレート・ガバナンスについて語る機会を与えていただいていると思っています。
——お父様の世彰氏は、例えば阪急電鉄と阪神電気鉄道の経営統合を実現するという大事業を成し遂げたわけですが、当時のお父様に対してどういう印象を持っていましたか。
村上 私は高校生でしたから、何も分かっていなかったですね。ちょうどスイスに留学していた頃で、日本のメディアにも触れる機会もなかった。スイスから帰国する飛行機の中で、テレビに父親に関するニュースが映っていて、かなりびっくりしました。その後、父は逮捕されたわけですが、大学では嫌な目で見られたり、噂話をされたりとかして、父親に対する反発心みたいなものもあったと思います。
今、父と同じ業界に入って仕事をしていて思うのは、父親が訴えてきた上場企業のあるべき姿、コーポレート・ガバナンスに関しては全く間違っていないということです。
——普通父親が逮捕されたりすれば、父親とは違う道を歩もうと思う人も多いと思いますが、あえて父親の仕事を引き継ぐという決断の原動力となっているのはなんでしょうか。
村上 逮捕がきっかけになって、実際に父親は間違ったことをしたのか知りたいという探究心が生まれました。それで、大学を卒業したら金融業界に入る、そして数年後には退社して父と同じ仕事をやってみようと思っていました。
それに、父の時にはまだ、コーポレート・ガバナンスを企業に浸透させるということを成し遂げられていなかった。日本は上場企業に関してはまだ途上レベルですよね。ですから、日本の上場企業がきちんとした株価形成をすること、それが最終的に日本の国益にもつながりますし、日本の経済発展にもつながります。そのゴールへの道のりに貢献したいと思ったんです。
すべてのステークホルダーが満足することが目標
——今後の目標は?
村上 基本的にコーポレート・ガバナンスには二つの側面があると思っています。一つは東芝や黒田電気のような「ルール違反」を犯さない、つまり企業の中のコンプライアンス、ルールを遵守するというガバナンスという側面があります。もう一つがコーポレートガバナンス・コードに基づき、企業経営者がきちんとした株価形成をするという側面です。
このコンプライアンス違反まで追求できるのは、現状ではうち(C&I)だけだと思っています。東芝もオリンパスも内部告発者が出たわけですが、このことは上場企業の経営者の方々がルール違反をしてしまっている結果なのだと判断しています。
ですから、うちとしてはきちんとした株価形成を実現させていくということと同時に、全ての上場企業がきちんとしたコンプライアンスを保ち、かつ従業員を含むさまざまなステークホルダーの方たちがきちんとした満足度を得られることを目指して行動していきたいと思います。
(2015年9月7日のインタビューに基づきニッポンドットコム編集部が構成)


