退位が先にくる皇位継承変更にはためらい

最終的に、われわれは「一代限り」という退位の仕方がいいと選択した。その理由だが、これまでの天皇の代替わりは本来、崩御が前提だった。亡くなって初めて皇位継承が行われるということだ。今回、恒常的に天皇が生前退位できるという法律を作るということになると、「崩御」の前に「退位」が来てしまう。

そうなった場合、(天皇が)高齢化すると、必ず(退位すべきなのかどうなのかという)「本人の意思」とか「周囲の恣意」が入る。退位を認めるかどうかの決定は、ものすごく危うくなる。「高齢条項を入れたらいい」という意見もあったが、「何歳で区切る」と一概に決めることは退位を強制することにつながるので、「まず無理だな」ということになった。

「早くやる(法制化に結び付ける)」ことが大事なポイントだというのも会議のコンセンサスで、やはり「一代限り」が最適という方向になった。

——皇室典範の条文の中に「退位」の規定は何もない。崩御だけが前提の皇位継承に、新しく退位を書き加えるのは「ハードルが高い、急には行けない」という理解でいいか。

もしそう(制度化)だとすると、第1に退位ありきで、退位しない天皇が崩御されるのが第2の場合ということになる。そうなると明治から150年間続けてきた皇統のあり方にも大きな変化を与えることになる。それを今の段階で早急に決めていいかどうかというのは、われわれの間にもややためらいがあった。まずは「緊急避難」「人道的な問題」として、特別法でいくのがいいという結論になった。

しかも次の天皇の将来の状況、そのまた次の天皇の状況にあてはまる要件を(法律に)書いていくのは非常に難しい。抽象化した法律では、恣意的に使われてしまう。加えて、退位の自由を認めるとするなら皇位継承を拒む自由も出てくる。そういう可能性をたくさん作ってしまうのは、今の時点でわれわれが議論するのは僭越(せんえつ)なのではと考えた。

「一代限り」でも、先例としての事実は残る

ここから先は私の個人的解釈だが、今回の結果で退位が実現した場合、いくら「一代限りの法律で決めました」と言っても、明らかに一つの事実として残る。今後は皇室の中でも政治家、国民の間でも「退位というのがあり得るのだ」「崩御、または退位」という認識になっていく。今回の「一代限り」の特別法は、ある意味で慣例法化していくだろう。

——有識者会議が今回の議論を行う上で、世論調査の動向などは意識したか。また、特に重視した点は何か。

メディアと対立してきた安倍政権にとっては異例なことだと思うが、今回に限っては「われわれは国民の、世論の動向を重視する」という姿勢。そのため、われわれも記者会見で「今後のプロセスで、どうぞ世論調査をしてください」と各種のメディアに呼び掛けた。この問題が公になった当初は、世論調査でも9割が「退位賛成」だった。

しかし、退位の在り方については「恒久法」を支持する人が多く、「一代限り」は当初は20%ぐらい。次第に「一代限り」を是認する割合が増えてきたのだが、これが10%、20%ぐらいに留まったままだったら、われわれも止まって考えざるを得なかったと思う。

もう一つ。ヒアリングした16人の専門家の意見は取捨選択せず、テーブルの上にすべて並べて議論した。「誰の」主張かというのは隠して、それぞれの主張そのものを並べてみて、主要な論点について意見をグループ分けし、整理することを重視した。

聞き手:石井 雅仁(ニッポンドットコム編集部)
インタビュー写真撮影:石原 敦志

バナー写真:ベトナム、タイ訪問を終え、帰国された天皇、皇后両陛下=2017年3月6日、東京・羽田空港(時事)