台湾の漫画に大きく貢献

焜霖氏は、政治犯として無実の罪で投獄されたり、会社や職業も転々としたりと、文字通りの激動の人生を歩んだ。その中でも漫画業との関わり、特に雑誌『王子』が台湾社会に与えた影響は格別である。

現総統の蔡英文氏の世代から今の40代は、小学校時代にもれなく雑誌『王子』ないしは王子出版社が出した絵本や漫画を読んで育っている。また、漫画出版大手・東立出版社の創始者・范萬楠氏は、焜霖氏が文昌出版社にいた時代に若手漫画家として芽を出した一人である。王朝基、洪義男ら各氏は漫画家として出発し、『王子』で物語イラストレーターとしての地位を確立した。

『王子』に批判的な論者は「日本の漫画に毒されている」と評することが多い。もちろん読者にはそれが日本起源のものとは意識されなかったはずだ。だが日本の漫画は、米国やフランス、香港などとは明らかに作風やストーリー展開の仕方が異なる独特のものがある。そして、戦後一貫して日本式の漫画に親しんできた台湾人が、日本や日本の文化商品に親近感を持ちやすい潜在意識や「体質」を形成し、それが親日を形作っている、といっても過言ではないだろう。

その意味では、焜燦・焜霖兄弟は、それぞれ違った側面で、日本と台湾の接近に大きく貢献したのである。

バナー写真=戒厳令時代の様子を伝える「白色テロ」被害者の蔡焜霖さん、2017年7月14日(時事)