デザイナーズホテルも廃業

かつて、全長300メートルほどの神農街は、清朝時代から続く特徴的な木造家屋の面持ちを残しつつ、うまくリノベーションした個性的なカフェや芸術家の工房に加え、地元住民たちが普通に暮らす通りだった。私にとっては、石畳を歩けば、心地よい台南の風とともに、何代も継承されてきた匠の技や、人々の生活を垣間見つつ、かつての古都・台南にタイムスリップできるお気に入りの場所だった。

今回翻訳出版した私の本にも、台南の神農街の店をたくさん紹介しているが、わずか1年足らずの間に、3分の1の店が入れ替わり、編集者が情報整理に四苦八苦していたことを思い出す。

観光地化することで、ある程度の変化は避けて通れないが、もう少しいいものを残すような開発ができなかったのか、残念さと悔しさでいっぱいになった。

私が台南を訪れた日は、佳佳西市場ホテルの最後の営業日だった。このホテルは、台湾で初の女性建築家・王秀蓮が、1970年代に設計した。長い間廃墟となっていた建物を、台南にゆかりのあるクリエイターたちが集まり、デザイナーズホテルとしてリノベーションした。2009年のオープン以来、台南人気の高まりとともに注目され続けた。

27の客室は、それぞれコンセプトが異なり、一つとして同じものはない。日本の建築家も設計に参加している。私も台湾の映画監督・蔡明亮がデザインした個性的な部屋に宿泊し、素敵な一晩を過ごしたことがある。

デザインだけでなく、ロケーションも抜群だ。1905年の日本統治時代に建てられ、今なお現役で使われている「西市場」の真横にあり、若者たちの力で、街おこしに成功した「正興街」もすぐそばだ。観光客にとってこれ以上便利なところはない。デザイン、知名度、立地とどれをとっても不足ないホテルなのに、6月末日をもって廃業してしまった。

人気があるのに、なぜ廃業するのか。西市場に生まれ育ち、台南の変化を見続けている謝文侃さんはこう話した。

「佳佳西市場ホテルの廃業はいろいろ複雑な事情があるけれど、ホテルが増えた分の観光客は増えておらず、値下げの競争をどのホテルも強いられているんです」

謝さん自身も民宿を何軒も持つ経営者だ。サービスの質を一定以上に保つには、それなりの料金設定をしなければならない。企業体力のある大型のチェーンホテルに対抗できない小さな宿泊施設は、どこも頭を悩ませているのだろう。

台南に佳佳西市場ホテルという確固たるブランドイメージを残したにもかかわらず無くなってしまうのは、一人の台南ファンである外国人の立場からすれば「もったいない」という言葉しか出てこない。

さらに謝さんは、神農街の変化についてこう続けた。

「台湾人による近視眼的な現象の面もある。ただ、もっと心配なのは、無計画に建てられた建築物です。クレーンゲーム機の店は3年で閉店するかもしれないが、一度建てられた建物は、少なくともその社会に50年は存在するからです」