自分たちより力量のある「高砂島」へ

視点を変えて、いかだを流すという行為に着目してみよう。

このいかだはいったい何の目的で海に流すのだろうか。神司の浦崎敏江さん(69)は「『お供えをするので、(疫病を)島には来ささないでください』ということ。ガバラぬ島が(疫病を)引き受けてくれる」と話す。そうであればこそ、いかだを波打ち際から流すタイミングは潮が引いていく時と決まっている。村の中から悪疫を追い出し、海の向こうへ放り出すというわけである。今回のシマフサラシが行われた2019年11月11日の干潮は午後0時41分。村の人たちは神司の指示を受けながら供物をいかだに載せると、干潮時刻の直前に海に浮かべた。

干立のシマフサラと同じようにいかだを海に流す儀式を行っている島が、八重山のほかの島にもある。有人島としては日本最南端の波照間島だ。干立村のある西表島と同じ竹富町に属している。

波照間島でいかだを流すのはシマフサラの儀式とは別の「ピタトムン」と呼ばれる儀式で、農作物を病害虫から守ることを目的とする。儀式では、島の東側から害虫やネズミ、カタツムリなどを捕まえていき、北西端の海岸へ来たところでバショウのいかだをつくり、これに捕まえてきた害虫などを載せて海に流す。祈祷では「この島には食い物がないが、西方に高砂島があって豊かであるので、その島へ移って楽に生活できるようこの舟をつくって見送る。安心して行け」と唱える。高砂島、つまり台湾を自分たちの村よりも力量のある場所と位置付け、病害虫の処分を託しているわけである。

「ガバラぬ島」とカバラン、そして、クヴァラン族。つながりをはっきりと示す線を手繰り寄せることはできない。干立村のシマフサラは、島の人たちが台湾を頼れる存在と見なしていた可能性を今に伝えているのかもしれない。

バナナの繊維を使った織物を学ぶ授業。クヴァラン族の長老(左)が糸の扱いを教える=2019年4月10日、台湾花蓮県豊浜郷新社地区(筆者撮影)
バナナの繊維を使った織物を学ぶ授業。クヴァラン族の長老(左)が糸の扱いを教える=2019年4月10日、台湾花蓮県豊浜郷新社地区(筆者撮影)

参考文献

  • 呉密察監修・横澤泰夫訳『台湾史小事典 第三版』(中国書店、2016年)
  • 竹富町教育委員会編集・発行『竹富町の文化財第5集 国指定重要無形民俗文化財 西表島の節祭(干立編)』(1997年)
  • 本田昭正編『波照間島の歴史・伝説考-仲本信幸遺稿集』(2004年、私家版)
  • 宮平盛晃『琉球諸島の動物儀礼 シマクサラシ儀礼の民俗学的研究』(2019年、勉誠出版)

バナー写真=バショウで組んだいかだに供物を載せ、海に流す。いかだが目指す先は「ガバラぬ島」だという=2019年11月11日、竹富町西表島の干立村(筆者撮影)