船内での思わぬ出会い

都会に住んでいるとなかなか大海原と呼べる景色を目にする機会がないため、水平線まで果てしなく広がる碧い海面と、うねりながら押し寄せる白い波に私は暫く見入っていた。風が強くて髪の毛がぼさぼさに乱れ、波の音がしきりに鼓膜をくすぐる。空の下にはたくさんの大きな黒い鳥(カツオドリ)が旋回しながら飛んでいて、海面を見張っていた。海からトビウオが飛び出してくると素早く方向転換し、華麗に滑空しながら海面へ垂直に飛び込み、トビウオを捕食しようとした。人類にとって異能としか呼びようのない能力の多くが、別の生物にとっては生きるための当たり前の能力であるという事実を改めて目の当たりにして、思わず感嘆の溜息を漏らした。

この船旅では特筆すべき出会いがあった。NHK番組『シルクロード』の音楽担当で有名になり、グラミー賞も受賞した音楽家・喜多郎氏も同じ船に乗っていたのだ。

「フェリーよなくに」は乗船の直前に、運航会社「福山海運」の窓口で切符を購入しなければならない。私は単独行動していたが、私の前に切符を購入していたのは何やら大きな荷物を持っている数人組で、中には一人、髪の毛をピンク色に染めている女性がいて、乗客がほとんど男性の中で彼女だけ存在感が強くとても印象に残った。船に乗り込んだ後にツイッターで与那国島について検索すると、偶然にも女性の自撮り写真付きのツイートが引っかかった。プロフィールから、女性はバイオリニストの鹿嶋静氏だと知った。ベンチ席に一人で座って海を眺めている鹿嶋氏に話しかけてみると、彼女は喜多郎氏と一緒に「離島の児童生徒応援プロジェクト 大空に夢を描こう」コンサートツアーを行っている最中であると教わった。多良間島、西表島、石垣島でのコンサートを経て、ちょうど私と同じ日に与那国島へ向かっているのだ。

「大空に夢を描こう」コンサートはNASAやJAXAの宇宙映像を背景に、喜多郎氏がアルバム『古事記』の収録曲をシンセサイザーで演奏する、いわば日本最古の創世神話と現代の天文学との共演だった。通常ならばチケットが数千円もかかるだろうが、この日のコンサートは与那国中学校体育館で開催し、誰でも自由に入場できることになっている。まさか日本の辺境の島でこのような出会いがあるとは夢にも思わなかったので、この日は私も「日本最後の夕日が見える丘」で太陽が水平線下へ沈むのを見届けてから、与那国中学校体育館にお邪魔した。素敵な演奏だった。

与那国中学校体育館にて、喜多郎氏と鹿嶋静氏によるコンサート(筆者撮影)
与那国中学校体育館にて、喜多郎氏と鹿嶋静氏によるコンサート(筆者撮影)