貢献の積み重ねの先に、成長と大役が待っている
櫛田入りを終えて街に出た千代流の舁き山は、狭い路地を抜け、JR博多駅からまっすぐ延びる道幅の広い大博通りに差し掛かった。内藤さんはこの通りで、表の「台上がり」の大役を任された。舁き山の台に座り、仲間を鼓舞しながら交代や進路の指示を出す台上がりは、舁き手なら誰もが憧れる重要な役割だ。しかも、同じタイミングで弟の淳さんが見送りの台上がりを務めることになった。
舁き手である水法被(みずはっぴ)姿の男衆が大博通りに現れると、沿道の見物客から拍手と声援が湧き起こった。台に飛び乗った内藤さんは鉄砲と呼ばれる赤い指揮棒を持って一礼し、両手を大きく振り上げながら「オイッサ!」とかけ声を上げた。千代流は七つの流のなかでも一、二を争う大所帯。1500人にも上る男衆を統(す)べた瞬間だった。
「弟とは台上がりする直前に『頑張れよ』と肩をたたき合いました。100メートル弱の短い距離でしたけど、役目はしっかり果たせたと思います。隊長からは、とにかく台上がりを立派に全うするよう言われていて、自分もそれだけを考えて追い山に臨みました」
台上がりを任命した隊長の綾部さんは言う。「内藤は後輩の面倒もよくみるし、山笠の仕事も見えないところですごく頑張ってくれている。俺は内藤のじいちゃんには特別に可愛がってもらったんで、内藤のことも小さい頃からよく知っているけど、だからといって、贔屓(ひいき)して決めたわけじゃないですよ。ここ数年の彼の努力を評価しての結果です」
「この人を男にする」。その気概が山のぼせの神髄
午前5時33分。千代流が最後の力を振り絞り、「廻り止め」に到着した。最後に台上がりを務めた綾部さんは、観衆の拍手に迎えられ、深く頭を下げた。呼吸を整えると周囲の人々にお礼を述べ、博多手一本で締めくくった。綾部さんの顔に初めて安堵(あんど)の表情が浮かび、勢い水(*6)と汗でずぶぬれとなった男衆の一人ひとりに、真夏の朝日がさしていた。
祭りが終了した翌日、内藤さんに改めて博多祇園山笠の魅力について聞いてみた。「大人になるにつれ、自分の利益とは関係なく一生懸命になれることって少なくなっていきますよね。山笠にはそれがあるんです。あと、誰かを『男にする』ために頑張ることの良さっていうのもあります。自分らが担ぎ上げた人に役目を立派に果たさせることの満足感っていうか。今年は一番山で、しかも当番町の隊長を務めた綾部のプレッシャーってすごかったと思います。僕らはその隊長のために全力を尽くした。隊長の想いを遂げることで、どこにも負けない達成感を味わうことができたんですよ」
壮大な祭りを支えるのは女たち
「男の祭り」というイメージが強い博多祇園山笠。しかし、博多祇園山笠振興会会長・瀧田喜代三さんは「実際は女性に支えられているからこそできる祭りなんですよ」と話す。山笠は他の祭りと比べ期間が2週間と長い。その間、家庭を守り、直会(*7)(なおらい)の料理を作り、汗と勢い水でびしょびしょになった法被や締込みを洗うのは女性たちだ。「何より、山笠に出かける前に『ケガばせんごと、気を付けて行ってきんしゃい』と言ってくれる。博多の男衆はそんな女性たちの言葉に気を引き締めて山笠に臨むんです」
毎年7月1日から15日まで行われる博多祇園山笠の詳細は、博多祇園山笠公式サイトで。
末尾のフォトギャラリー「千代流 追い山ドキュメント」もご覧ください。
取材・文=蔵迫 由里子
撮影=草野 清一郎































