国際文化観光都市・京都の挑戦は続く

社会 文化

京都市が思い切った観光刷新に動き出している。派手な看板を撤去し、外国人観光客への対応も強化する。観光の活性化に意欲的に取り組む門川大作・京都市長に話を聞いた。

門川 大作 KADOKAWA Daisaku

1950年京都市生まれ。立命館大学二部法学部卒。京都市教育長を経て、2008年2月より第26代京都市長に就任。徹底した「現地現場主義」をモットーに、市民活動の場や市政の第一線を4,700カ所以上訪問。その市政改革は全国地方都市のモデルとなっている。好きな言葉は「心を込めてすべてを大切に」。

京都は日本人の心のふるさと

——最初に、門川市長が考える京都の魅力について教えて下さい。

「米国ボストンにあるジャパン・ソサイエティーのピーター・グリーリー特別顧問は『京都は日本人の心のふるさとだ』と言ってくれています。我々はそうした声をしっかり自覚して、京都の魅力を高めていかなければなりません。では京都の魅力とは何か。ひとつが『ものづくり』です。1,000年以上の間、日本の都だった京都には、伝統産業から先端産業に至るものづくりの伝統が脈々と受け継がれています」

「京都には世界のオンリーワン企業、ナンバーワン企業がたくさんありますが、そのルーツが面白いんです。仏壇・仏具の分野から精密機器の島津製作所が、清水焼・京焼などの焼き物の世界からセラミックの京セラが育ち、花札の任天堂は世界のゲーム会社になった。お酒づくりが薬やバイオテクノロジーにつながり、織物・染め物の分野から半導体の製造装置が生まれました」

「ものづくりだけではありません。1,000年前に『源氏物語』が書かれて以来、京都は『ものがたりづくり』も担ってきました。能や狂言、お茶、お花、香道などの日本文化は京都が発祥です。背景には、自然と共生してきた日本人の生き方や、京都というまちのあり方、さらに背後には宗教があります。漫画、アニメ、京料理なども、そうした伝統の延長にあると言えます」

欧米に強いがアジアには弱い京都からの脱却

——世界最大の旅行情報サイト「トリップアドバイザー」のランキングでは、京都よりも広島などの人気が高いですね。他の人気観光サイトでも、2013年は東京が2位で京都が9位でした。この現状をどう受け止めますか。

「発行部数約100万部を誇る世界的な旅行雑誌『Travel + Leisure(トラベル・アンド・レジャー)』の“ワールドベストシティ”ランキングで、京都は2013年に5位と、ローマやパリよりも上でした。月間約80万部の富裕層向け旅行雑誌『コンデ・ナスト・トラベラー』の2013年観光都市ランキングでも、アジア都市部門第1位に選ばれています。北米、ヨーロッパ、オセアニア地域では、京都の文化は高く評価されているんです」

「逆にアジア地域では京都の魅力が十分に伝わっていないのではないかと思います。アジアからの観光客は、買い物など多くの要素を旅に求めます。だから京都へは訪れず、秋葉原などで電気製品などを買って帰られる。こうした潮流が京都の人気度に影響している部分はあるでしょう。京都は、1回来て感動して終わり、というまちではありません。年間5,000万人の訪問者のうち、8割が5回以上訪れたリピーターなんです。『ほんまもん』をアジアの人、世界の人に発信していく努力が必要です」

国宝級の寺・神社があるだけではダメ

——京都には国宝の約20%、重要文化財の約14%が存在しますが、魅力を十分に生かし切れていないのではないかという意見もあります。


より大きな地図で 世界文化遺産 古都京都の文化財 を表示

「京都観光は、清水寺に代表される東山と、西の嵯峨・嵐山地域の2つに偏っています。京都には2,000以上のお寺や神社がありますが、そこを訪れるだけでは『ほんまもんの観光』にはなりません。せっかくの文化財ですから、静かに思いにふけり、自分を見つめるという体験をしてもらいたい。滞在型の楽しみ方などを提案することも必要でしょう」

「一方で、2012年の世界遺産条約採択40周年最終会合で京都を訪れたボコバ・ユネスコ事務局長ら世界遺産の専門家は、異口同音に言いました。『京都は素晴らしい。150万人の市民が生き生きと暮らし、大勢の観光客が訪れ、産業都市でもある。さらに17もの世界遺産があり、あらゆる芸術活動が営まれている。こんなまちは世界でもまれではないか』と。それを守り発展させ、創造力豊かなまちにしていく責任を、我々は痛感しています」

これからは多言語対応とICTの強化

——国際的な観光都市を目指すには、多言語対応などの面で課題があるのではないでしょうか。

「外国人には小さな旅館が人気ですが、多言語には十分に対応できません。そこで24時間4カ国語で対応するコールセンターを作りました。インターネットが自由に使えないことも外国人には不評だったので、これまで500カ所を超える場所に一定時間まで無料の無線LANのアクセスポイントを設置。今後、合計630カ所への設置を目指して整備を進めています。また、行き先を入力すれば渋滞状況を勘案してルートや所要時間を教えてくれる公共交通の経路検索アプリも作りました」

——2020年には年間2,000万人の観光客を日本で受け入れようとしています。道路など従来のインフラを拡張するだけではなく、ITのような新しいインフラへの投資が非常に重要だと思います。

「ICTを最大限に利用して、タクシーは全部スマホで手配、マイカーは市の中心部に入ってこないという仕組みを作りたいですね。『歩いてこそ京都』です。歩けばお地蔵さんがあり、お寺の鐘の音も聞こえてきます。車では楽しめない京都の魅力を発信し、歩いて『ほんまもんの京都』を理解してもらいたいと考えています」

規制強化で京都の景観を守る

——世界的な観光都市・京都の美しさを守るために、思い切った景観政策も進めているそうですね。

「日本人の心のふるさとである京都の景観を守るために、京都市は2007年から、建物の高さやデザイン基準の見直し、眺望景観や借景の保全、屋外広告物対策の強化といった新景観政策を実施しています。例えば屋外広告物の場合、屋上の看板、派手な赤い看板、パチンコ店などのチカチカ光る看板は認めません。条例の経過措置期間は2014年8月末で終わり、是正指導に従わない場合は強制的に行政が代執行することになります。国内外からの観光客に『京都が美しくなった』と喜んでいただけるよう、全力で取り組んでいます」

看板変更例。派手な色の看板(左)から、落ち着いた色の小さな看板(右)に変更された。

「DO YOU KYOTO?」=「環境にいいことしていますか?」

——京都は環境への取り組みでも知られていますね。

「1997年、人類史上初めて、温室効果ガス削減を定めた世界的な取り決め『京都議定書』が地球温暖化防止京都会議(COP3)で誕生しました。京都市では、京都議定書の発効日である2月16日にちなんで毎月16日を『DO YOU KYOTO?デー』と定め、ライトダウンや省エネ、公共交通の利用促進など、環境にやさしい取り組みを積極的に推進しています」

「『DO YOU KYOTO?』は、COP3に環境大臣として参加されたドイツのメルケル首相が、COP3開催10周年で京都を再訪された際に教えてくれた言葉で、『京都してますか?』つまり『環境にいいことしていますか?』という意味です。『京都』は都市の名前を超えて『環境にいいことをする』という意味の言葉になり、世界で使われているんです。我々は世界をリードする環境先進都市としての役割を、目に見える形で果たしていかなければなりません」

まちの美しさこそが京都の「おもてなし」

——東京オリンピックの開催決定で流行語にもなった「おもてなし」の語源は、「裏表なし」つまり表裏のない心で客を迎えることだとも言われます。市長が考える京都の「おもてなし」とは何でしょうか。

「美しいまちにお客様をお迎えすることも『おもてなし』のひとつでしょう。朝起きたら家の外を掃く『門掃き(かどはき)』は古くからある京都の伝統で、多くの市民が実践しています。また、市役所職員も500ほどある市の施設の周辺をボランティアで掃除しています。2013年に観光客を対象に行ったアンケートで『まちが清潔だ』『ゴミが少ない』という声が多く聞かれたのは、京都市が十数年来取り組んできた『まち美化総行動』に加え、京都に根付く伝統が評価された結果だと思います。私はこのことを誇りに思っています」

市民による「まち美化総行動」

「時間と費用をかけて京都へいらっしゃるお客様には、満足を超えた感動を提供しなければなりません。『泊まってこそ京都』『歩いてこそ京都』、さらに『食べてこそ京都』です。この100年、世界は近代化を急ぎ、その結果、多くの都市からは個性が失われました。しかし日本、とりわけ京都は近代化に成功したにもかかわらず素晴らしい個性が残っていると言われます。この個性を大事にして世界の方々に感動していただきたいと思っています。ぜひ京都へお越しください」

(インタビューは2014年2月25日、京都市役所で、一般財団法人ニッポンドットコム代表理事 原野城治により行われた。)

【京都市の基礎情報】

人口:1,469,204人(2014年2月推計)面積:827.90km2アクセス:関西国際空港からJR特急「はるか」で約75分/東京駅から新幹線「のぞみ」で約2時間20分/博多駅から新幹線「のぞみ」で約3時間
撮影=中野 晴生
資料写真提供=京都市役所
素材写真提供=京都フリー写真素材集
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